この記事は日経ビジネス電子版に『高齢者雇用を阻むマインドセット「男性・管理職・大会社」を崩せ』(2月16日)として配信した記事などを再編集して雑誌『日経ビジネス』2月22日号に掲載するものです。

大企業で管理職を経験した男性ほど「自分に合った仕事が見つからない」と嘆く傾向にある。自分がこれまで培ってきたスキルを客観的に把握し、ギャップを埋めていくことが重要だ。加齢に伴って変化する知力・体力も「スキル」の一つと捉えることで、人材ミスマッチを克服する。

 「自分の経験を生かせる仕事がない」

 登録者の平均年齢が70.5歳という高齢者専門の人材派遣会社、高齢社(東京・千代田)の緒形憲社長は、就職説明会を開催した後、そう肩を落として会場を後にする男性を何人も見てきた。その多くが、定年まで大会社で管理職だった人たちだ。2000年に同社を設立し、首都圏を中心に高齢者向けに就職説明会を展開してきたが、今も変わらない傾向に危機感を募らす。

 「現役時代は大企業の部長など高い職位に就いていた方ほどプライドが高い。『男性・管理職・大会社』から、仕事を見つけるため新しいことに挑戦するんだというマインドセットに変える必要がある」。緒形社長は強調する。

 年金などの社会保障制度を維持したい国は、70歳までの継続雇用を企業に求めることで、国民に定年後も働き続けてほしいと考えている。だが、65~69歳の就労率を見ると19年は48.4%にとどまっており、生産年齢人口(15~64歳)の77.7%との開きは大きい。

 高齢者の就労率の低さは、現行制度では65歳から年金支給が始まるためでもある。しかし、65歳以降の就労率を高めていくには、凝り固まったマインドセットのせいで自らのスキルに見合った職を見つけられない状況から抜け出さなければならない。

 日経ビジネスのアンケートでは、定年後に働いていない回答者のうち、半数近くが、「定年後も働きたい気持ち」があったと回答している(COLUMN参照)。その中には「気力・体力があるのに社会から切り離されるのは自分の老化を加速されるみたいだ」(60代後半、男性、無職)と嘆く声もある。70歳までの雇用延長に本気で取り組むのであれば、社会全体で「働きたいのに働いていない」という潜在的な高齢人材を流動化させる仕組みが不可欠だ。

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