この記事は日経ビジネス電子版に『70歳“定年”パニック、雇用延長が企業と個人にもたらす「不幸」』(2月1日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2月22号に掲載するものです。

AI(人工知能)などデジタル化の進展で、人材のミスマッチが急拡大する。深刻な影響を受けるのが、単純労働に集中する定年退職をした高齢人材。コロナ禍で変化は加速しており、状況を放置すれば「再就職氷河期」が襲いかねない。

(写真=上:PIXTA、下:Yoshiyoshi Hirokawa/Getty Images)
(写真=上:PIXTA、下:Yoshiyoshi Hirokawa/Getty Images)

 「日本の労働市場では2020年代後半以降、大きな職のミスマッチが起こる」

 そう話すのは、三菱総合研究所政策・経済センターの武田洋子センター長だ。30年までに新技術の進展が労働市場にどのような影響を与えるかを試算した結果が、下のグラフだ。

事務職は20年代前半から過剰状態に
●人材が余る仕事と不足する仕事
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出所:三菱総合研究所推計
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 縦軸が人材の過剰/不足を示し、管理職か専門職かといった職種別に色分けしている。まるで、開いたワニの口のように、今後10年で人材のミスマッチが急拡大することが分かる。

 21年時点では全ての職種が不足しているが、その後は事務職が急速に過剰となり、28年ごろから生産・運輸・建設職、そして30年には販売・サービス職も過剰となり、合計で200万人を超える人材が余る。一方、不足していくのが専門職だ。多くの企業が取り組むデジタルトランスフォーメーション(DX)を担うエンジニアなどがそれに当たる。その規模は30年には170万人に達するという。

 これがなぜ、高齢者の雇用で問題となるのか。それは、過剰となる職種こそ、これまで高齢者の雇用の多くを吸収してきた分野だからだ。

 下のグラフは現在、日本の労働者がどのような仕事に就いているかを示す。管理職、専門職、事務職といった職種別の分類を、さらに仕事の特性に応じて2軸4象限に分けた。

高齢者の仕事は定型的なものに集中する傾向がある
●日本の人材ポートフォリオ(2015年の実績)
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出所:三菱総合研究所「内外経済の中長期展望 2018-2030年度」
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 縦軸は、アイデアや独創性が問われる創造的仕事か同じ作業を繰り返す定型的な仕事かを示し、横軸は体を動かす手作業かデスクワークの多い頭脳作業かを示している。

 この図で、高齢者はどのあたりに集中しているのか。武田氏によれば「『定型的・手作業的』な領域、および『定型的・頭脳作業的』な領域にシフトしていく傾向がある」。つまり、先の人材の需給予測に照らすと「余剰感が増す仕事」に高齢人材が集中していくと考えられるわけだ。

 余剰感が増す仕事に高齢人材が集中するのは、55歳前後の役職定年で管理職から外れることも影響している。だが、それより大きな要因として、高齢人材のスキルがデジタル化の進展などによる企業の人材ニーズの変化に合致していないことが考えられるという。

小売り・サービス業の従事者が多い
●65歳以上の高齢者の産業別就労割合
<span class="fontSizeM">小売り・サービス業の従事者が多い</span><br> <span class="fontSizeS">●65歳以上の高齢者の産業別就労割合</span>
出所:2019年 労働力調査年報
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