この記事は日経ビジネス電子版に『「CATLには負けられない」 トヨターパナ電池連合の勝算』(2月3日)、『ニッポンの電池材料、液晶の轍は踏まず』(1月29日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2月8日号に掲載するものです。

高いシェアを誇ってきた電池産業と、トヨタ自動車を筆頭に屈指の強さを持つ自動車産業。両分野が交わる市場で、かつての液晶や半導体と同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。国を挙げた振興策に、投資や再編など企業側の果敢な決断。その両輪が必要となる。

半導体や液晶テレビをはじめ、日本は主要産業で浮沈を繰り返してきた
<span class="fontSizeM">半導体や液晶テレビをはじめ、日本は主要産業で浮沈を繰り返してきた</span>
写真左:1983年のNECの半導体工場。80年代、日本企業が米国を凌駕(りょうが)していた
写真中下:シャープは「亀山モデル」をうたい液晶テレビを販売したが、過度な投資で経営不振に
写真右:提携会見で握手するトヨタ自動車の豊田章男社長(左)とパナソニックの津賀一宏社長(右)
(写真=左:Fujifotos/アフロ、中下:Tomoyuki Kaya/アフロ、右:東洋経済/アフロ)
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 「寧徳時代新能源科技(CATL)には絶対に負けられない。開発・生産準備の生産性を従来の10倍に引き上げることで、信頼性や性能はもちろん、コストでも勝負できるようにする」

 トヨタ自動車が51%、パナソニックが49%を出資して2020年4月に設立したプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)の好田博昭社長は1月半ば、本誌の取材に応じ、そう力を込めた。

 ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)向けの車載電池は「あらゆる電池の中で最も厳しい設計条件をクリアすることが求められる」(日産自動車パワートレイン・EV技術開発本部の枚田典彦エキスパートリーダー)。スマートフォン用に求められる寿命が2~3年とすると、車載は8~10年。「零下20度の極寒の地から高温の砂漠でも安定稼働し、急速充電の負荷や振動や衝撃にも耐える必要がある」(枚田氏)

 EVでは、自動車の構造は心臓部のエンジン周辺や排気系を中心に、簡素化される。EV1台に搭載する電池の重量は200~400kgともいわれ、原価の2~3割を占めるともいわれる。自動車の価格、居住性などを決定づける車載電池事業の成否が、電池産業の競争力を占う一つの物差しとなる。

 パナソニックは円筒形の車載電池を米テスラに供給する一方で、旧三洋電機の流れをくむ角形車載電池も手掛けてきた。角形はコスト面では円筒形に劣るが、積載効率が高い。

 その生産・開発の現場にトヨタ生産方式を持ち込むことで価格競争力を劇的に引き上げる。それがトヨタ出身の好田社長に課された使命だ。電池と自動車の両雄が手を組んだPPESは、「世界最高峰の車載電池メーカー」を自任する。だが、内心は穏やかではない。

 PPESはHV向けの高出力型のリチウムイオン電池では19年の販売台数ベースで世界シェア25%と首位に立つ。ただ、1台当たりの電池容量がHVのおよそ50倍に達するEV向けの高容量型電池では、同3%の世界8位。コストや規模で先行する首位の中国CATLの23%に及ばない。

 富士経済は35年の世界の電動車販売が19年比7倍超の約3600万台に達し、8割以上をEVとプラグインハイブリッド車(PHV)が占めると試算する。高容量型の巨大市場で地位を確立できなければその先の成長は見込めない。

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