この記事は日経ビジネス電子版に『アップルEVの電池はどこがつくる? ある日本企業が候補に浮上』(2月2日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2月8日号に掲載するものです。

EV市場を切り開き時価総額が80兆円に達したテスラは、電池でも価格破壊を狙う。アップルも独自の電池技術を武器に、EV市場への参入が現実味を帯びてきた。テスラ発の地殻変動はシリコンバレーで広がり、次々に新興企業が立ち上がっている。

 米テスラとイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)をこよなく愛す「テスラ・マニア」。この1カ月間、SNS(交流サイト)でしきりに話題にしているのが、米アップルが2024年にも発表すると目されるEV(電気自動車)、通称「アップルカー」だ。

 「エキサイティングだ! これからのモビリティー市場をテスラとアップルで奪い合うことになるのだから。しかも両社は全く異なる戦略を持つ。戦略の差は、それぞれが採用するバッテリーの特性から読み取れる──」

 電池技術の最新情報をニュージーランドから動画で発信しているジョーダン・ジーシジさんは、こう興奮気味に話す。テスラが採用するのは、パナソニックと米ネバダ州に建設した「ギガファクトリー」で内製するリチウムイオン電池だ。ではアップルは?

 ジーシジさんは、秘密主義で知られるアップルの内部情報を同じテスラ・マニアから入手した。企業を分析する動画制作会社を17年に立ち上げたガリレオ・ラッセルさんだ。テスラ株を保有しマスク氏とも交友があるというラッセルさんによると、アップルが複数の選択肢の中でも有力視するのは東芝のリチウムイオン電池「SCiB」。内部の関係者から得た情報で「信ぴょう性は高い」と話す。

 この内通者の話では、アップルは東芝の柏崎工場で生産されたセルを取り寄せ、社内設計のバッテリーに仕立てた。性能試験で「すぐ道路に出せるレベル」(ラッセルさん)だったため外部の試験機関に詳細試験を依頼したといい、審査プロセスで先を行くと見られる。東芝はこの件について「臆測の情報が出ていることは認識しているが、臆測にはコメントできない」としている。

EV化ボタンを押したテスラ

 冒頭でジーシジさんが触れていた「バッテリーから読み解けるアップルの戦略」とは何か。それをひもとく前にまず、テスラがどのようにEV市場を開拓してきたかを知る必要がある。「テスラ対アップル」の構図は、テスラが築いた土台の上で初めて成立するものだからだ。

 日産自動車が世界初の量産型EV「リーフ」を発売してから11年。EVの普及が進まない背景の一つに、原価の2~3割を占めるとされるバッテリーの高いコストがある。

 マスク氏は、この課題を解決するためのマスタープランを06年と16年の2回、発表している。まず、利益率の高い高級モデルを市場に投入する。次に、高級車の生産で構築した生産ラインを転用して初期投資を抑え、低価格モデルを発売するというものだ。

 テスラが17年に発売した「モデル3」がそれだ。3万5000ドルの価格帯がEV購入のハードルを下げ、20年のテスラの世界販売台数を前年比36%増の約50万台に押し上げた。同年12月期通期では初めての黒字化も達成している。

 EV市場を切り開いてきたテスラが今、想定するのが「30年までに年産2000万台」という見通しだ。20年のトヨタ自動車グループの世界生産台数(921万台)の2倍以上と「破格」だが、米ゴールドマン・サックスも「市場20%のシェアを取れば40年までに1500万台に届く」と試算する。ほら吹き呼ばわりされながらも有言実行を貫き、足元の時価総額が8000億ドル(約83兆円)を超えたテスラだけに、侮れない。

 モデル3の成功は、これまでEV参入にちゅうちょしてきた自動車大手を突き動かした。調査会社ガイドハウス・インサイツのサム・アビュエルサミド氏によると、今後の3年間で世界市場に投入されるEVのモデル数は300に上る。そうなれば「テスラはシェアを落としかねない」と同氏は警鐘を鳴らす。

 対抗手段としてテスラが目指すのが、モデル3よりもさらに安い2万5000ドルのEVで、ここでも鍵を握るのがバッテリーコストの低減だ。コバルトなど調達が難しい素材を使わない材料の開発や、バッテリー設計の変更、生産ラインのカイゼンで難題に挑む。

テスラが壊す3つの壁
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(写真=ロイター/アフロ)
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