多くの企業が今、かつてない苦境に陥っている。次の一手に迷う経営者も多い。「三菱御三家」のトップは、創業者・岩崎弥太郎の言葉を挙げて原点に立ち返った。危機を克服し、未来への道筋に光を当てる。ファウンダーの金言にはそんな力がある。

 1 三菱重工業は逆風にさらされ小型ジェット旅客機の事業を凍結した(写真は三菱航空機提供) 2 グループの経営理念である三綱領を掲げる御三家首脳(右から三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行会長、三菱重工業の宮永俊一会長、三菱商事の小林健会長) 3 スリーダイヤのマークはかつての輝きを取り戻せるのか

 お祭りムードは皆無だった。2020年秋、東京都内で開かれた三菱創業150周年の式典。コロナ禍という時世も重なり、いわゆる「三菱御三家」のトップは危機感をあらわにした。三菱商事の小林健会長は「それぞれの企業が社会変革にもがいている」と語った。幕末の動乱期、岩崎弥太郎らがつくり上げた創業150年の三菱も、かつてない逆風の中で、「もがき」の渦中にいる。

 三菱商事は伊藤忠商事に時価総額で抜かれた。三菱UFJフィナンシャル・グループは連結純利益で、三井住友フィナンシャルグループに越された。三菱重工業は小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット」で迷走し、事業凍結に追い込まれている。

色あせる挑戦への意識

 「“挑戦者”として第一歩を踏み出した原点に立ち戻る」と強調したのは、三菱重工の宮永俊一会長。巨大グループになった現状に甘んじていたり、新領域の開拓に躊躇(ちゅうちょ)していたりしていないか。コロナ禍という危機だからこそ、自社の歴史やファウンダー(創業者)らの声と行動をひもとき、危機克服と未来へのヒントを探るべきだ。そんな思いがにじむ。

 「三綱領」は、弥太郎から小弥太まで初代から4代にわたる社長が受け継いできた精神をまとめたものだ。1つは「所期奉公」。今風に言えば、「企業は社会の公器たれ」という言葉に近い。2つ目は「処事光明」、フェアプレーに徹することだ。そして3つ目が「立業貿易」。時代は違えども、常にグローバルな視点で事業展開と稼ぎ方を考えよ。そう説く。

 「歴史をたどれば困難な時代にこそ、次の時代を創り出す原動力が生み出されてきた」(三菱UFJの平野信行会長)。裏を返せば、現状の三菱は時代に合わせたポートフォリオ変革などに二の足を踏んでいるように見える。

 長年、「組織の三菱」と称されてきたが、いつの間にかこれらが足かせやしがらみにもなり、「たこつぼ経営の集合体」に。そんな皮肉さえ飛び交う結果に、弥太郎らの教えをかみしめ、原点回帰を模索せずにはいられない。

 「ファウンダーの教えに救われた」。そう表現しても言い過ぎではない企業もある。ファスナーの世界大手、YKKだ。「土地っ子になれ」。創業者の吉田忠雄氏が残した代表的な言葉の一つである。

 地域の事業会社の資金繰りは大丈夫か──。世界経済が大混乱に陥った20年春、各地域の売り上げが半減するほどの大打撃の中、YKKで威力を発揮したのが地域ごとのグループファイナンスの仕組みだった。

 簡単に言えば、世界を6つのエリアに分け、域内で上がった資金をプールしてグループ会社が平等に使えるというものだ。資金ショートが続出しかねない事態を防ぐ受け皿になった。大谷裕明社長は「本社からの送金を待たずして、各事業会社が雇用も守った上で乗り切った」と話す。

続きを読む 2/5 コロナ禍で生きた「善の巡環」

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この記事はシリーズ「日清食品、ファナック、YKK…… 危機を越えるファウンダーの教え」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。