この記事は日経ビジネス電子版に『失敗ではなかった「有明プロジェクト」 ユニクロ柳井氏が目指すもの』(1月14日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』1月18日号に掲載するものです。
本部機能を東京湾岸に移転して進めている経営改革「有明プロジェクト」。必要な量を作り、無駄なく消費者に届けるというアパレルの究極の課題に取り組む。目標はサプライチェーン改革にとどまらない。柳井正氏が今、取り組むものは何なのか。

2020年12月26日。東京都下にあるユニクロの大型店は、年末の買い物客でごった返していた。売れ筋のフリースフルジップジャケットは新価格と書かれた「赤札」が掲げてある。ワゴンセールで投げ売りされているセーターのサイズはSとMに偏っていた。売れるサイズを読み切れず、需要を超えて作り過ぎている実情をうかがわせた。
ファーストリテイリングは他社がまねできない品質の商品を、SPA(製造小売り)モデルでコストを下げて大量生産することで急成長してきた。しかし、欠品による機会損失を防ぐため、多めに作って余りをセールで売り抜くというアパレル業界の宿病から、ファストリも抜け出せていない。
「無駄なものをつくらない、運ばない、売らない」「お客さんの要望が全部商品になり、その商品がお客さんの期待以上のものになり、すぐ届くようにする」。柳井正会長兼社長はアパレルの慣行を打破し、サプライチェーンから働き方まで変える経営刷新に乗り出している。
東京・豊洲市場から目と鼻の先にある湾岸の有明では、16年春に巨大倉庫を稼働させた。リアルタイムの販売状況に合わせて出荷するという「有明プロジェクト」を開始。17年2月にはユニクロの本部機能の大半を東京・六本木から、この6階建ての倉庫兼オフィスに移転した。
ファーストリテイリングの桑原尚郎グループ上席執行役員は「全ての情報が常に回り続けていることが有明プロジェクト」と説明する。来店客の嗜好や、SNSで人気のコーディネート、買い手が商品に抱く不満などあらゆる情報を集約し、企画開発に生かして生産量も決めていく。
目指すのは売り切れる量と生産量を一致させることだ。情報を軸にすべてのワークフローを見直して無駄を省けば働き方改革にもつながるとみている。
その前段階として物流の効率化から手を着け、EC(電子商取引)向けに使っている有明倉庫では18年春から次々に自動化技術を取り入れている。RFID(無線自動識別)タグやロボット技術、センサーを駆使。商品をRFIDで把握し、位置や動きを追跡している。商品の入庫から荷下ろし、検品、保管、出庫指示といったほとんどの作業を自動化した。
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