「熱意あり」は世界最低レベル

 今、日本企業は社員との関係を作り直し始めている。長年続いた「大卒定期一括採用で長期にわたって処遇に大きな差をつけず、均質で求心力の高い社員を育てる」という日本型雇用システムの根幹の変化はその典型でもある。

 「大卒定期一括採用」や「終身雇用」は日本企業の特徴だが、終身雇用は既に少しずつ崩れ始め、新卒採用とその後の処遇にも変化が起きている。これもまたプロローグで触れた「固定」「安定型」経営の逆流の一つと映る。

 ソニーは20年4月には、人工知能(AI)などで極めて高い技術を持つ人材には年収数千万円以上でも出すエクセプショナル・リサーチャー制度を導入し、既存の人事制度の枠を超え始めた。意識するのはGAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)など、世界の強豪ITとの人材獲得競争だ。

 日本企業にとっての社員への期待は明らかに変わりつつある。重要なのは企業にとって必要な役割を果たせるかどうかだ。ソニーは15年にジョブグレード制を導入して賃金の年功的要素を完全になくし、仕事の役割や重さに応じて賃金を支払う形に切り替えた。

 同時に全社員の4割に達していた管理職を半減し、部下のないスタッフ部課長などをなくすという荒療治にも踏み込んだ。裏にあったのは08~14年度の最終赤字が累計約1兆円に達するほどの業績不振だった。企業と個人の関係の抜本的な作り直しが競争力再構築に欠かせなくなったのである。

 だが、その道を進むのは容易ではない。米調査会社ギャラップが17年に世界139カ国のビジネスマンを対象に実施した従業員のエンゲージメント調査は衝撃的な内容だった。日本は仕事に対して「熱意あふれる社員」の比率がわずか6%しかないことが分かったのだ。米国の33%よりも大幅に低く、全体で132位と最下位クラスだった。

(写真=Yukinori Hasumi/Getty Images)
(写真=Yukinori Hasumi/Getty Images)
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 一方で「やる気のない社員」の比率は約71%、「無気力な社員」は23%に上った。かつて「会社人間」「モーレツサラリーマン」などと呼ばれた働き手の熱量は大幅に下がっていたのである。

 長期的に続いた集中・固定・安定の経営モデルをどう転換させるか。ソニーは企業が期待する役割を明確に示し、処遇と連動させることで社員に自立を促したが、新たな動きは業界を問わず次第に広がり始めている。

 「もう支店長だけが山の頂上ではない」。りそなホールディングスは21年度から従来の人事制度を抜本的に改革する。その目玉が、19の専門的職種コースを設定し、行員に選択させるというものだ。銀行の文化の中では、行員の最終目標は支店長とされてきた。そのために融資、中小企業の経営支援、金融商品販売など様々な業務を幅広く経験していく。銀行業務のゼネラリストこそ理想像だったが、それを一変する。

多様な分野のプロを目指す
●りそなホールディングスの2021年度からの新複線型人事制度
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注:それぞれのコースに最大で19のプロフェッショナルグレードと9つのポストグレードがある
出所:りそなホールディングスへの取材を基に本誌作成
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 データサイエンティスト、DX(デジタルトランスフォーメーション)スペシャリスト、ITスペシャリスト……。従来型の渉外・融資に外為、経営コンサルタントなどと並んで、全く新しいコースが設定された。

 狙いは「例えばDXなら銀行業務そのものを変えて顧客に新たな価値を提供する人材をつくる」(新屋和代・執行役人材サービス部担当)こと。多様な分野で専門人材を増やし、銀行業の在り方自体を変えていこうというわけだ。

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