この記事は日経ビジネス電子版に『ソニー、もう1つの構造改革 「新人格差」で促す個の自立』(2021年1月5日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2021年1月11日号に掲載するものです。
コロナ後の企業は、社員との関係が大きく変わりそうだ。社員の独立意識が高まり、企業はそれを支援するフラットな関係になる。社員の求心力をどう保つか。利益だけではない存在意義が問われる。
「この業界は年々環境が大きく変わるから求められる仕事も変化する。成果に対する評価がしっかり行われるのはありがたかった」
2019年春にソニーに入社し、AV機器のソフト開発に携わる山岡遥香さん(仮名)は、入社して間もない頃の“感激”を今も思い出すという。実は山岡さんは「新入社員の初任給は平等」という日本企業の原則をソニーが大企業で初めて崩した最初の年の入社者だ。
ソニーはこの年、仕事の役割や重要度に応じて定めている職務の等級であるジョブグレードに新入社員を位置づけ始めた。
入社後3カ月の試用期間を経て、山岡さんに付与されたのは一般職・技術職クラスで9段階あるジョブグレードのうち、下から3番目の「I3」。数年先輩と同じ現場担当者レベルに当たる。同期の中には付与を見送られた人も少なくなかったから高い評価である。大学院時代にプログラミング言語を複数習得しソフト開発のスキルを身につけていたことに加え、入社後3カ月間の働きぶりが認められたようだ。
ただし、格差ははっきりする。基本給に当たるベース給がI3になると増えることもあり、無等級の同期より年収換算で40万円程度多くなると見られるからだ。
狙いは国内外で激しさを増す人材獲得競争に勝つためだ。新興企業の中には初任給に差を付け、高額を出すところも珍しくなくなったが、ソニー自身も「若者の意識と画一的な処遇が合わなくなっていると感じ始めた」(陰山雄平・人事企画部報酬グループ統括課長)という。ソニーブランドだけでは若者を引きつけられなくなっているのだ。
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