この記事は日経ビジネス電子版に『商船三井はなぜ謝った? 石油流出事故は「SDGs謝罪」の号砲か』(12月14日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』12月24日号に掲載するものです。
モーリシャスで起きた船舶事故では、法的責任を否定する商船三井が謝罪した。謝罪会見を好意的に受け止められた東証も、過去と違う責任の認め方をした。「社会的責任」が求められる時代、謝罪の新たな流儀は何か。

ナディーム・ナズラリ氏は、かつて美しかった海岸を、目に涙を浮かべながら歩いていた。「サンゴが死滅し、生態系が壊れていく……」
インド洋の島国モーリシャスの沖で長鋪汽船(岡山県)所有のばら積み船「WAKASHIO(わかしお)」が座礁したのは7月25日(現地時間)。約1000トンの燃料油が海に流れ、一部はモーリシャスの海岸線約30kmに漂着した。
多くの海水浴場が閉鎖され漁は禁止に。地元の環境保護団体エコモード・ソサエティーの代表を務めるナズラリ氏は、「地元の貧困層の生活を直撃している」とうめいた。
事故現場は湿地の保全を定めるラムサール条約に登録された国立公園付近。マングローブやサンゴ礁など生態系への影響のほか、同国の基幹産業である観光業や水産業への打撃が懸念されている。ホテル経営者やエコツーリズム業者らは「新型コロナでただでさえ海外からの観光客がいなくなっているのに、国内からも来なくなった。二重苦だ」と口をそろえる。
WAKASHIOを所有する長鋪汽船は8月8日にプレスリリースで事故が起きた事実を伝えた後、同9日に記者会見を開催。長鋪慶明社長は「多大なご迷惑とご心配をおかけし、心より深くおわび申し上げる」と陳謝し、油の流出防止や回収に取り組む計画を語った。
この会見に、危機管理コンサルタントなど謝罪のプロたちが注目した。長鋪汽船に加えてもう一社、登壇した会社があったからだ。商船三井である。
「これは、新しい会見の流れになる」
ある危機管理コンサルタントは、この会見を見てこう口にした。
商船三井は、長鋪汽船から船を借り、荷物を輸送する指令を出す「定期用船者」に当たる。船を所有し、船員を乗せて運航するのは船主である長鋪汽船。一般的に船舶事故の場合は船主が責任を負うケースが多く、賠償費用をカバーするP&I保険(船主責任保険)は船主が加入している。
だが、会見場所は東京・港の商船三井本社の会議室。「まるで商船三井が謝罪会見を開いているかのようだった」(危機管理コンサルタント)。長鋪汽船の社長と共に登壇した商船三井の小野晃彦副社長は、「モーリシャスをはじめ、関係者に誠に深くおわび申し上げる」と謝罪した。
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