新型コロナウイルスの感染拡大「第3波」が日本全土を襲う中、気掛かりなデータがある。自殺者数の推移だ。2020年11月の速報値は1798人で、前年同月比で約11%増えた。
4月に緊急事態宣言が出されてから6月にかけて、自殺者数は前年を下回る水準で推移していた。在宅勤務が広がり職場のストレスが減ったためともいわれたが、7月以降は前年を大きく上回るペースで増えている。
コロナ発の経済不況が原因との分析がある。だが、「世間学」で知られる佐藤直樹・九州工業大学名誉教授は別の観点から警鐘を鳴らす。「日本における自殺の多さは同調圧力が根っこにある」というのだ。
「世間と同じ」じゃないと生きづらい。経済的な理由もその一つで、思い詰めてしまうと自殺につながる──。そんな悪循環の高まりを懸念する。「世間を離れては生きていけない。コロナ禍で、そんな同調圧力が高まった」(佐藤氏)
「自粛警察」の勃興はその一つだ。外出や営業の自粛要請に応じない個人や商店を、私的に取り締まり、非難する。感染を抑える意味では、同調圧力は効果を発揮したかもしれない。だが、相互監視の強まりは息苦しさを伴う。
同調圧力は企業も襲う。落ち度がなくても、コロナ対応の甘さがあれば、謝らなければ批判を受けかねない。
「地域住民の皆様、関係者の皆様に多大なご心配をおかけすることを心よりお詫び申し上げます」。トヨタ自動車は新型コロナに感染した従業員のうち、周囲と接触があった約70人の職場や年代・性別、最終出社日などをホームページ上に記している。
「社内外の注意喚起を促すため」(トヨタ)とのことだが、事前に対処を徹底しなければ、問題が起きたときに「炎上」の火力はより大きくなりかねない。
企業は戦々恐々とし準備を怠るまいと必死だ。11月下旬、某金融グループの3社の社長から広報部員まで総勢数十人が、不祥事が起きたことを想定した訓練を実施した。各社がそれぞれ「顧客情報の流出」といった不祥事を想定。コロナ禍という状況を踏まえてリアルとオンラインで同時開催した模擬会見では、「情報を出し渋っているのか」と場が荒れる一幕があった。
「あなたたちが被害者ならば企業に何を求めるかを考えて」。訓練を実施した危機管理コンサルティング会社のアズソリューションズ(横浜市)の佐々木政幸社長は、そう注意した。「自分たちの認識がいかに甘かったか」。会社側からはそんな感想が漏れたという。
同調圧力の高まりは「謝罪圧力」となる。まずはコロナ禍で、いかに謝罪圧力が高まったかを検証する。その先に、企業がより強くなり、日本で、そして世界で共感を得るために不可欠な「謝罪」という行為の本質が見えてくる。(写真=Nick Dale/Getty Images)
(北西 厚一、橋本 真実、吉野 次郎、定方 美緒)
CONTENTS
PART1
コロナ禍で社会全体が過敏に
「嫁」も「ゴキブリ」もNG? 炎上を受け流す胆力必要
PART2
商船三井と東証に見る「責任」の背負い方、SDGs時代の鎮火の鉄則
COLUMN
「米国では謝罪しない」のウソ、武士道の「潔さ」は世界に通用する
PART3
松下幸之助もこれで危機を乗り切った
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