コロナ禍は国内鉄道と航空各社の業績をむしばみ、体力を奪った。傷んだ地方経済に追い打ちをかけるように、線路や空路の整理・縮小が忍び寄る。「これまで普通にあったものがなくなる」。そんな事態はどの街にも起こり得るのだ。

線路は続かぬいつまでも
忍び寄る路線整理

 吉報は最後まで届かなかった。人口2000人余りの福岡県東峰村。村を走り、少なからず生活を支えてきたJR日田彦山線が豪雨災害で不通となり3年、今年5月の結論は「鉄道での復旧を断念し、線路跡はバス専用道にする」。1000日以上、列車を迎え入れることも出発を見送ることもできない筑前岩屋駅のホームは、すっかり草がむし、枕木も目を凝らさねば見えない。

 東峰村の渋谷博昭村長は顔を曇らせる。「日田彦山線は村に住む高校生にとって重要な通学の足だった。バスへの転換が決まり人口減少に一層、歯止めがかからなくなるかもしれない」

 鉄道をどこまで、いつまで続けるのか。古くて新しいこの議論がコロナ禍で再燃し、衰退が続く地方に厳しい判断を迫りそうだ。日田彦山線の場合、豪雨災害で不通になってきた添田(福岡県)~夜明(大分県)間の復旧には、約56億円の費用がかかるとされた。

<span class="fontBold">JR日田彦山線の筑前岩屋駅(上)と、名所の「めがね橋」。もうこの橋を列車が渡ることも駅に止まることもない</span>
JR日田彦山線の筑前岩屋駅(上)と、名所の「めがね橋」。もうこの橋を列車が渡ることも駅に止まることもない

 JR九州が路線継続に難色を示してきたのはこの点で、しかも平均通過人員(利用客数)は1日131人(2016年度)。年2億6600万円(同)の赤字を出してきた。「年1億6000万円を沿線自治体が負担しなければ鉄道での復旧は困難」。冷徹と言われようとこの姿勢を崩さなかった。東峰村を含め沿線3自治体に突き付けられたのは、年間5000万円ずつを負担できるかどうか。外堀はだいぶ前に埋まっていたと言える。

 日田彦山線を巡っては、村側も地元住民も「廃線はないだろう」とみていた。その理由は、旧国鉄が1980年代に大幅な廃線を実施した際、「路線全体の利用客数」が存廃の判断基準となっていたからだ。しかし近年、JR各社は路線の現状をつぶさに見る。区間を細かく区切り、利用客数も公表する。「乗客を増やすのか。自治体が金銭的な負担をしても鉄道として残したいのか。あるいは別の交通手段に変えるのか。考えてほしい」(JR九州の青柳俊彦社長)。こんなメッセージを発し続けている。

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