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国連が指摘している通り、世界の食糧配分は偏っている。だがそもそも、食糧は重量がかさみ、保存にも限りがあるなど取り扱いが難しい。豊かな食環境を広げるには、需給を結び付け、適切に行き渡らせる工夫が要る。

 「原料をこの地域でつくっているが、大丈夫だろうか」。東京都豊島区の高層ビル「サンシャイン60」に入る日本気象協会。新型コロナの影響でサプライチェーンが混乱する中、天候変動による原料の仕入れを不安視する問い合わせが、食品メーカーなどから頻繁に入っている。

 日々の天気予報を流すのが日本気象協会の仕事だが、2017年度から企業向けに「商品需要予測事業」を始めている。短期(日単位)、中期(週単位、15週先まで)、長期(月単位、6カ月先まで)の予測に加え、一般には出していない詳細な気象データを提供。これを基に「体感温度」を計算したり、ある商品がどの時期にどの程度売れるかを割り出したりし、コンサルティングも手掛ける。顧客企業はその情報を商品の調達や陳列に生かせる。

 豆腐メーカーの相模屋食料は短期予測から冷ややっこの日々の需要を想定し、食品ロスを30%削減した。豆腐は消費期限が短く、生産段階から気候を考慮に入れることで収益構造を高めた。ミツカンは中長期の予測から「いつまで冷たい麺が食べられるか」の時期を見通し、「冷やし中華のつゆ」の出荷時期を調整している。

独自ノウハウで未来を予測

 「シミュレーションは我々の土俵。気象という膨大なデータの解析を何十年も続けてきた」。同事業を担当する古賀江美子氏はそう語る。気象予測のベースにするのは、雨、気温、湿度、日照時間、風といった生データ。これらを地形や大気の流れなどと合わせる独自手法で解析し、先行きを予測する。

 日本気象協会は8月、この事業の海外展開に踏み切った。すでに世界約6000カ所の気象データを日々取り込める体制を整えている。各国・地域の気象当局のデータが重なる場合はより正確なものを選ぶ。「世界最高レベル」という精度の気象予測技術の使い道を、今後は世界の問題解決に広げる。

世界6000カ所で気象を把握
●日本気象協会の観測地点
世界中の気象データを日々入手できる体制を整えており、干ばつ(写真)や大雨に加え、食品の需要も予測できる(写真=ロイター/アフロ)

 同協会の本間基寛・商品需要予測プロジェクトマネジャーは「日本でも現時点で気象データを積極活用している企業は1割にすぎない。逆に言うと、生かせる可能性は大きい」と指摘する。短期と長期の需要から逆算し、ロスが出ないように適正な分量を調達する──。この「技術」が普及すれば、日本で年600万トン超の食品廃棄はおろか、偏在という世界の食糧問題を解決する一助になるかもしれない。

 限りある世界の食糧をいかに配置するか。予測に加え重要なのが、ものを運ぶ技術だ。資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は「水ほどではないが、食糧は移動させにくい地域限定資源」と説明する。加工品はともかく、穀物のほか、魚や肉、野菜といった生鮮品の鮮度が保たれる時間には限りがある。

日経ビジネス2020年11月23日号 38~41ページより