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あらゆる産業に使われる半導体を海外に依存するようになった日本。米中対立の行方にかかわらず産業競争力が低下しかねない。主力産業の命運を海外に握られる状況を脱するにはどうすべきか。

(写真=Xuanyu Han/Getty Images)

 「御社の工場を使ったファウンドリー(半導体受託生産)事業は可能でしょうか」。2019年半ば、ある半導体メーカーの幹部にこんな打診が来たという。打診してきたのは経済産業省の担当者。念頭にあったのは台湾積体電路製造(TSMC)の誘致だ。既存工場にTSMCの製造技術を導入し、日本企業が手掛けるデータセンターや自動車に向けた先端半導体の製造を委託する構想だった。条件が合わず立ち消えになったが、「国は先端半導体のサプライチェーンを強く意識している」(半導体メーカー幹部)。

 半導体産業に詳しい成城大学の中馬宏之教授は「既存の国内工場を使ったファウンドリー事業の展開は、地政学リスクを緩和する手段の一つになり得る」と話す。最先端の技術を持つTSMCなどを誘致すればグローバル企業を顧客として呼び込めるし、ファブレスの半導体メーカー、製造装置や材料など周辺産業の活性化にもつながる。「米中の長期にわたるであろう覇権争いの勃発は、日本の存在感を再び高めるチャンスともいえる」(中馬教授)

 とはいえ、仮にファウンドリーを誘致できたとしても、実際に量産を開始するまでに3~5年はかかる。それまでに日本の産業競争力が低下してしまっては元も子もない。「産業のコメ」とされる半導体の多くを海外に依存している状況で、いかに競争力を維持するかが喫緊の課題だ。

半導体の開発効率を10倍に

 「桁違いに開発効率がよくて、エネルギー効率もいい半導体を開発する。米インテルや米エヌビディアから買った汎用チップではGAFAと戦えない」。こう気炎を吐くのは東京大学の黒田忠広教授だ。日立製作所、パナソニック、トヨタ自動車とデンソーの共同出資会社ミライズテクノロジーズ、凸版印刷の4社と東京大学は、8月に「先端システム技術研究組合(RaaS、ラース)」を設立した。黒田教授が主導するこのプロジェクトが目指すのは「エネルギー効率10倍、開発効率10倍」。スマート工場やスマートホーム、スマートカーなどに使う次世代の半導体を、日本の企業が素早く開発できる環境を整えようとしている。