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米中対立が深まる中、世界の半導体大手は次を見据えて動き出している。台湾ファウンドリー大手は米国への進出で存在感をさらに高めそうだ。米国は新たな事業モデルを模索。新たな覇権争いも始まりそうだ。

世界の工場としての期待が高まるTSMC(写真=ロイター/アフロ)

 グランド・キャニオン国立公園を筆頭に大自然のイメージが強い米国南西部のアリゾナ州。ここに、世界の半導体関係者が熱視線を送る。

 カリフォルニア州に隣接するという地理的な背景もあり、アリゾナ州には半導体世界シェア首位の米インテルが製造拠点を構えている。州都であるフェニックス郊外の地方都市チャンドラーにあるインテルの工場から最初の半導体が出荷されたのはちょうど40年前のことだ。

 だが、今回の主役はインテルではない。半導体受託生産(ファウンドリー)の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)だ。TSMCが2020年5月、アリゾナ州での半導体工場の建設計画を打ち出したのだ。背景には、最先端の半導体を製造できる拠点を国内に確保しようとする米国側の強い働きかけがあったとされる。

 TSMCは、クアルコム、エヌビディア、ブロードコムといった米ファブレス半導体大手に加え、「iPhone」や「iPad」向けの半導体を自ら設計する米アップルを主要顧客に抱える。米中の分断が進む中、中国本土に近い台湾だけではなく、国内でも調達できるようにするのが米国の狙いとみられる。

 TSMCは新工場を21年に着工し、24年に生産を始める予定だ。1カ月に約2万枚のシリコンウエハーを加工できる新工場は1600人以上、周辺産業を含めると数千人の雇用を生み出すという。投資金額は29年までの9年間に約120億ドル(約1兆3000億円)。TSMCにとってはワシントン州に次ぐ米国での第2の製造拠点となる。

 20年の設備投資額を170億ドルと見込むTSMCからすれば、アリゾナ州への年平均約13億ドルという投資は少なく見える。ただし、米国での事業拡大は台湾に工場が集中しているTSMCにとっても米中対立下のリスク回避の有力な手段になる。TSMCが補助金などを活用しながらアリゾナ州の計画を拡張する可能性もある。

日経ビジネス2020年11月2日号 36~39ページより