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幾度ものピンチをくぐり抜け、それを糧に成長を続ける企業がある。一方で、たった一度の危機で衰退を始める会社も少なくない。両者の差は、危機を好機に変える「4つの技術」の有無にある。

ピンチを乗り越えて成長してきた有力企業のトップら。左からサティア・ナデラ氏、星野佳路氏、豊田章男氏、孫正義氏(写真=ナデラ氏:ロイター/アフロ、星野氏:諸石 信、孫氏:NurPhote/Getty Images)

 2020年3月期、1兆3646億円の営業赤字となったソフトバンクグループ(G)。だが、孫正義会長兼社長に相変わらず動揺は見られない。

 「余裕で崖の下をのぞいている状況」と言い、「防御のため」として4兆5000億円の資金化を約束。実際、中国アリババ集団の株式活用などで、既に5兆5000億円の資金を確保している。

 それどころか9月には、約3兆3000億円で4年前に買収した半導体設計の英アームを、米半導体大手エヌビディアに最大4兆2000億円で売却すると発表。支払いの過半を株式で受け、AI(人工知能)用半導体で有力な同社の筆頭株主に躍り出る。

ピンチを重ねながら企業価値を高めてきた
●ソフトバンクグループの時価総額の推移
出所:QUICK・ファクトセット

ピンチを起爆剤にする会社

 巨額の赤字を計上し「守り」に入っているようにも見えるが、その実態は「攻め」といっていい。これが同社のいつものやり口だ。ソフトバンクという会社はもともと、目の前に現れたピンチをいつの間にかチャンスに変えることを繰り返し、成長してきた会社だ。

 1981年にソフトウエア販売会社として発足。投資で損失を重ねたが、95年に米ヤフーを発掘して帳消しにした。2000年のネットバブル崩壊では株価が100分の1に急落。その後、ブロードバンド参入でNTTに挑戦状をたたきつけ、4期連続赤字も経験したが、生き残った。

 さらに06年には、約2兆円で英ボーダフォン日本法人を買収して携帯電話に参入。「10年以内にNTTドコモを抜く」(孫氏)と大口をたたき、実際、13年に収益で上回った。

 13年に子会社化した米スプリントは経営の立て直しに苦労したが、結局は世界進出の足掛かりとしている。その軌跡を振り返ると、まるで、節目節目であえて自らピンチを作り上げることで、次の成長への起爆剤にしているかのようだ。

 コロナ禍の打撃を受け続けている日本経済。実質GDP(国内総生産)は4~6月期に、年率換算で戦後最大の28.1%減となった上、8月の完全失業率は3年3カ月ぶりに3%台に乗った。こうした危機に直面するたびに、多くの企業から「ピンチをチャンスに」という掛け声が上がる。だが、ソフトバンクのように実践できる企業は少ない。

 ピンチを糧に成長を続けるしぶとい企業と、そのまま衰退へ向かう会社との差は何なのか。経営学や組織論の世界では、「危機を好機に変える技術」はあらかた確立されている。それは次の4つだ。

 「ピンチをチャンスに変える」とはそもそもどういうことかといえば、“危機に直面することで、平時では現れない組織の潜在的能力を顕在化させ、危機以前よりも強い状態になる”ことだ。組織であれ個人であれ、これを実践する大前提となるのが、まずは「ピンチでパニック状態にならないこと」(脳科学者の岩崎一郎氏、28ページ参照)となる。

 組織が動揺し、岩崎氏の言う「FF状態」に陥れば、危機を好機に変えるどころの話ではなくなる。これを防ぐ有効な方法が「長期的な視野に立つこと」(岩崎氏)だ。

 簡単な例でいえば、リーマン・ショック級の市場暴落が起きても、「人類の経済は、曲折を経ながらも、拡大し続ける」との超長期的視点を持つ投資家は狼狽(ろうばい)売りはしない。企業経営も同様で、「目の前の危機が、遠大な目標にたどり着く過程の曲折の一つ」と経営陣や社員が信じている会社は、ピンチに動じることはない。

 世界50カ国以上で展開する組織・人事のコンサルティング会社、米コーン・フェリーも、経営や市場の見通しが立たない今、リーダーが意識すべき項目として、“将来への予測と目標を見失わないこと”の重要性を挙げている。