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「自国第一主義」と製造業の復活を掲げてきたトランプ政権の4年間。厳しい姿勢とは裏腹に、自動車関税などでは大胆なアクションには至っていない。中国との貿易戦争は激しさを増すが、産業競争力の底上げは途上だ。

 新型コロナウイルス感染症で米国は世界で最も多い21万人以上の死者を出した。歴史に残る惨事に直面しながら米国の株価が高水準を維持する理由の一つに、トランプ大統領の存在があることは間違いない。FRB(連邦準備理事会)に強い利下げ圧力を加えて株価を下支えし、国民に資産効果の恩恵を与え続けている。

 このように、トランプ氏の手法は誰にでもすぐ理解できるほどシンプルだ。

 中国を「雇用を奪った敵」と位置づけ、重い関税を課して中国製品の流入を減らす。世界の企業に米国での生産を促し、製造業の国内回帰を図る。結果、職を失っていた労働者に雇用が戻り、人々の生活が豊かになる──。

 このシナリオが2016年の大統領選で中西部を中心とするラストベルト(さびた工業地帯)の有権者を引き付け、事前予想を覆して勝利した。

 だが、この自国第一主義は本当に米国民を豊かにしたのだろうか。新型コロナ前までは順調に失業率が下がっていたのを見れば、一定の成果はあったかに映る。ただ米国の貿易収支の推移に目を移すと、そうとは言い切れない現実が浮かび上がる。19年の貿易収支は6167億6000万ドルの赤字で、バラク・オバマ政権時に比べてむしろ増えている。トランプ政権が米経済にもたらしたものは何なのか。

トランプ政権は株高と低失業率を実現した
●米国の2000年以降の主な出来事と経済指標
出所:失業率は米労働省労働統計局、米貿易収支は米商務省経済分析局のデータを米Statistaが集計、ダウ工業株30種平均はダウ・ジョーンズ
(写真=左:The White House/Getty Images、右:共同通信)

 「あまり大きな声では言えないが、次もトランプ氏ならいいのにと思っている」。ニューヨークに拠点を構える日本企業の赴任者たちの多くは、こんな本音を口にする。

 17年1月にトランプ政権が発足した時、米国で事業を展開する日本企業のほとんどが戦々恐々としていた。トランプ氏自ら個々の企業への不満をツイッターにつづる「ツイッター砲」。その強烈な日本勢への第一撃がトヨタ自動車へのバッシングだった。

自動車関税は事実上の「無効」

 きっかけは同年1月5日に東京で開かれた賀詞交換会だ。豊田章男社長が報道陣に「いろいろなものを見ながら判断したい」と話し、メキシコ工場の計画に変更がないとの見解を示すと、6日にトランプ氏はさっそく「あり得ない。米国に工場を造るか多額の関税を払え」とツイッター砲を放った。

 これに対する豊田社長の反応も速かった。9日、デトロイトで開かれた北米自動車ショーで「米国に5年間で100億ドル(約1兆600億円)を投資する」と高らかに宣言した。これがトランプ氏の絶賛を買い、この時は事なきを得た。

トランプ氏就任直前、トヨタ自動車は米国での大型投資を発表(写真=ロイター/共同)
日経ビジネス2020年10月19日号 30~33ページより