首都圏郊外の大型団地などを中心に、居住エリアの中だけで暮らす高齢者が増えている。近隣の商業施設が消え、買い物に行く交通費など生活コストが上昇する人も少なくない。同様の現象は、戸建てが集まるニュータウンや一般の住宅街にも広がりつつある。

「分断? 言われてみればそんな感じかな。団地内には、買い物以外で団地の外に行かない人もいれば、コロナ禍で引きこもっている人もいる」。東京都清瀬市の旭が丘団地で暮らすC氏(76)はそう話す。

旭が丘団地は日本住宅公団(現UR都市機構)が建設し、1967年から入居が始まった大型郊外団地だ。東西800m以上にわたり40以上の棟が並ぶ高度経済成長期の団地の典型で、カンヌ国際映画祭に出品された是枝裕和監督の映画「海よりもまだ深く」の舞台になったことでも知られる。
そんな旭が丘団地にC氏が入居したのは約45年前。「当時はみんな子育て世帯で、それはもうにぎやかだった」。しかし今、その面影はない。
取材班が現地を訪れたのは、8月も終わりを迎える日曜の午後。高齢化でいわゆる「昭和の郊外団地」が活気を失いつつあることは、かねて認識していたが、いざ足を運ぶと、団地全体がまるで眠っているかのような静けさだ。コロナ禍の影響もあるにせよ、人影は全くなく、セミの声だけが異常に響く。そんなとき、団地内の小さな広場に体を動かしに姿を見せたのがC氏だった。
団地の部屋からも出ない
団地の光景を一変させた原因は、言うまでもなく高齢化だ。清瀬市や団地の自治会によると、旭が丘団地に暮らす人に占める60歳以上の住民の割合は2008年10月時点でおよそ6割。17年時点では65歳以上の住民が69%に達し、60歳以上だと76%。4人に3人が60歳以上という超高齢化団地だ。
「この団地にはエレベーターがないから、年を取ると階段の上り下りだけでひと苦労。車がない人だと、団地の外にすすんで出ようとは思わないでしょう」(C氏)
総人口に占める高齢化率が30%目前となった日本。そんな世界で類を見ない超高齢化も、「人の移動」を滞らせる大きな要因の一つだ。年を重ねれば、誰しも足腰が弱る以上、日常的な行動範囲は狭まって当然だ。国土交通省によると、全国にある3000近い団地のうち約3割が入居開始から40年以上が過ぎ、半分近くの物件で65歳以上の住民が居住者の3割を占める。その多くは、旭が丘団地の一部住民と似たような暮らしを送っている可能性がある。
団地の中だけで暮らす生活は、若い人から見れば、単行本累計発行部数が1億部を突破した人気漫画『進撃の巨人』のウォール内での暮らしのように映るかもしれない。両者の違いの一つは、団地の住民の場合、えたいの知れない巨人などがうろついていなくても“壁の外”になかなか出られないことだ。
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