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首都圏で人の移動が停滞している要因の一つは、2020年初頭から日本を襲ったコロナ禍だ。テレワークの常態化によって、自宅から数km圏内という狭いエリアで暮らす人も増えている。ビジネスエリアと居住エリアの分断は、双方に様々な経済的影響を及ぼし始めている。

(写真=PIXTA)

 「今年3月以降、自宅から2km圏内のエリアをほぼ出ないで生活している。外に出たのは両手で数えられるくらい」。東京・丸の内の金融機関に勤めるA氏はこう話す。

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 2月までは、川崎市の自宅から小田急線で片道1時間かけて毎日通勤していた。働き方改革の一環として始まった早朝会議に間に合わせるため、朝食もそこそこにラッシュアワーの電車に乗る。その分、早く帰宅できるわけでもなく、数時間の残業の後、職場の同僚らと飲みに行くこともしばしば。平日は、むしろ「自宅2km圏内」にいるのは寝るときだけという生活だった。

 ならば休日はどうかといえば、これまたあまり変わらない。郊外にあるショッピングモールで買い物したり、趣味用品を物色したり。「自宅2km圏内」にも商業施設はあるが、都心や大型店の方が安く買えるし品ぞろえも豊富だと思っていた。

快適だった多摩川越えぬ生活

(写真=PIXTA)

 そんな生活がコロナ禍で一変する。3月から在宅勤務が導入されると、顧客との打ち合わせも、社内のミーティングも原則オンラインとなり、海外の拠点とのミーティングもほぼ自宅でこなすようになった。世間の外出自粛ムードもあり、週末の遠出もなくなった。

 しかし、退屈するかに思えた“多摩川を越えない生活”は、蓋を開けると「思いもよらず快適だった」とA氏は話す。

 まず、あの不快で苦痛な通勤時間がない。同僚に気を使っての無駄な残業も、上意下達の会議も、気の進まぬ飲み会も消え、仕事の効率は意外にも上昇。仕事への拘束時間が減った結果、朝晩のウオーキングと筋トレが日課となり、体調も良い。

 休日の買い物も今ではネット通販で全く支障がない。趣味用品も、海外の通販サイトなどを活用すれば、日本の大型商業施設などで買うより安く良質な商品が手に入ることを今さらながら知った。

 2020年初めから、日本を襲ったコロナ禍は、経済や社会、文化に至るまで様々な影響をもたらした。その一つが、少なからぬ人々の「日常的な行動範囲を狭めたこと」だ。

 とりわけ首都圏では、コロナ対策に伴うテレワークの常態化によって、都心への通勤者が着実に減少。郊外ではA氏のような“エリア限定型の暮らし”をする人も増えた。データを見ても、その多くが今も、「都心に行かない生活」を続けていることが見て取れる。

日経ビジネス2020年10月5日号 26~29ページより