新型コロナウイルスの猛威をデジタルの力で抑え込んでいるのが台湾だ。その背景には、市民の力を借りるオープンイノベーションの考え方がある。民主主義とデジタルの力を組み合わせた台湾の成功を日本は学ぶべきだ。

<span class="fontBold">台湾市民は事前にマスクマップで在庫を確認した上で薬局に向かう</span>(写真=読売新聞/アフロ)
台湾市民は事前にマスクマップで在庫を確認した上で薬局に向かう(写真=読売新聞/アフロ)

 台湾で新型コロナウイルスの最初の感染者が出た1月21日以降、台湾の薬局やスーパーには大勢の人がマスクを買うために押しかけた。需給ひっ迫の危険性を感じた当局は1月24日、医療用マスクの輸出を禁止し、同30日には国内で製造するマスクはすべて台湾当局が管理するとして収用を開始した。全国に行き渡らせる体制を整えたものの、不安を感じた住民によるマスク買い占めも起こり、店舗の在庫はすぐになくなってしまう。

 マスクはどこにあるのか。SNSなどにはさまざまな情報が飛び交った。そんな時、台湾南部・台南市のプログラマーが、マスクが買える場所を地図アプリから検索できるシステムを開発し、公開していた。

 「これを台湾全土に広められないか」。アプリを見た時、台湾のIT担当の政務委員(閣僚)、オードリー・タン(唐鳳)氏は即座に思ったという。

 折しも2月3日、台湾当局はマスク不足対策として同6日から1人当たりのマスク販売枚数を制限し、健康保険証のICカードを使って購入履歴を管理すると発表していた。もともと処方箋が必要な薬の購入などに用いていた同システムを、マスクの流通統制に使うことにしたのだ。

3日で完成したマスクマップ

<span class="fontBold">政府が公開したオープンデータを基に多くのマスクマップが作られた</span>
政府が公開したオープンデータを基に多くのマスクマップが作られた

 「流通データを公開すれば、マスクがどこに、どれくらいあるか分かるアプリに応用できる」。そう考えたタン氏は、流通・在庫状況をオープンデータ化し、インターネット上に公開した。すると、多くの市民ハッカーたちが、流通データを取り込む形で地図アプリを開発。実名販売開始の2月6日には多くの地図アプリが公開されていたという。わずか3日で完成したマスクマップのおかげで、台湾住民はその後も大きな混乱なく、すべての人がマスクを購入できるようになった。

 もちろん、一市民が作るものなので当初はバグが出ることもあった。しかし、データは公開され、システムもすべてオープンソース化されているため、気づいた人物が指摘したり、修正したりする形で改善を重ねていった。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止対策やそれに伴う経済・社会の混乱収拾に各国が苦慮する中、ITを駆使した防疫管理体制が功を奏しているのが台湾だ。世界で最初に感染爆発が起きた中国と地理的に近いにもかかわらず、これまでの感染者数を8月29日時点で488人に抑え込んでいる。

 冒頭のマスクマップ以外にも、SNSを活用したデマやフェイクニュースの拡散防止策、携帯電話基地局と隔離者との距離測位技術を使った在宅検疫隔離者追跡システムなど、さまざまな施策にITが活用されている。

IT駆使して情報を「見える化」し、社会不安抑える
●台湾におけるITを使った主な新型コロナ対策
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政府は新型コロナ対策として毎日会見を開き情報公開した(写真=右下:AFP/アフロ)
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 こうした施策の実現に向けて指揮を執るのが2016年の蔡英文政権誕生を機に35歳という史上最年少で入閣したタン氏だ。