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社会全体がリモートワークに突入したことで、改めて働き方を見直す動きが広がっている。ジョブ型雇用、出社しない働き方、単身赴任の解消、副業人材の受け入れ──。コロナ禍を機に、会社と個人の関係は従属から対等へと大きく変わろうとしている。

時田隆仁社長がジョブ型への転換を進める原点は就任直前の英国駐在。「ジョブ型は海外では当たり前だが日本だけが違う。働き方を統一したい」と話す(写真=ビル:DPA/共同通信イメージズ、オフィス:ロイター/アフロ、時田氏:北山 宏一)

 「出社しているのは1割くらいかな。毎日、定時に出社することに懐疑的だったから在宅勤務は大歓迎。ジョブ型も、根強かった横並び意識、年功序列の排除につながると期待している」

 富士通でグループ再編などに携わる40代の男性社員に話を聞くと、こんな答えが返ってきた。同社は7月、大胆な働き方改革を発表。約8万人の国内グループの社員を原則在宅勤務にしてオフィス面積を半減。通勤定期券代の支給も停止し、世間の耳目を集めた。

 目玉は、「ジョブ型」と呼ばれる雇用モデルの全面採用だ。4月に国内1万5000人の幹部社員に適用し、2021年度中に一般社員への展開に向けて労働組合との協議を始める予定という。

 日本では従来、仕事の内容や勤務先などを明確に定めず、“白紙契約”のような状態で正社員として働くのが一般的だった。企業という共同体の一員になるという意味合いから、この雇用形態は「メンバーシップ型」と呼ばれる。

 これに対するのがジョブ型。「ジョブディスクリプション(職務記述書)」に基づき、あらかじめ仕事の内容や報酬などを明確にしたうえで、会社と個人が厳格な雇用契約を交わす。欧米をはじめ日本以外では一般的な仕組みだ。

ジョブローテーションは過去のものに?
●「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の違い

 メンバーシップ型とジョブ型は、働き方がまるで異なる。その大転換を、富士通は19年6月に就任した時田隆仁社長の下で一気に進めようとしている。

 なぜ、富士通はジョブ型へと大きくかじを切るのか。社長就任直前の約2年間、英国ロンドンに駐在していた時田社長は、こう説明する。

 「ジョブ型は海外では当たり前だったが日本だけが違った。13万人の全社員が同じ目的に向かって動いてこそ、富士通の価値は最大化する。だから、働き方を世界で統一したい」

 そしてもう一つ、ジョブ型にこだわる理由が「社員の自律」だ。社員がキャリアを自分自身で築いていくことを意味する。新卒一括採用で入社し、ジョブローテーションの中で主体的にキャリアを築こうという意識が希薄なまま管理職となり、50代で役職定年を迎え、60代で定年退職する。そんな世界からの決別を社員に迫る。

 横並びで一斉に実施していた階層別教育は廃止。オンラインのキャリア講座などを充実させ、必要なスキルを自ら選択して身に付けられるようにする。役職定年制度も廃止した。10月からは管理職のポジションを公募にする。自発的に手を挙げなければ昇進できなくなり、若手が名乗りを上げることも可能だ。

 時田社長は「自律した強い個人の集合体になってこそ組織が強くなる」と訴える。競争を促すことで、個人を、さらには組織を活性化させたい考えだ。

 バブル崩壊後の1993年、富士通は他社に先駆けて成果主義を導入したが、目標を低めに設定したり、周囲の社員と成果を奪い合ったりするなど、「導入は失敗だった」と見る向きも少なくない。今回のジョブ型導入について、「成果主義の導入に失敗したリベンジで、コスト削減策にすぎないのではないか」(厚生労働省幹部)という冷ややかな見方もある。

 確かに、大企業ほど変化を恐れ、制度を変えても運用面で骨抜きになることは多い。人事制度はその典型で、バブル崩壊やリーマン・ショックなど危機が訪れるたびに成果や役割を重視するものに変わったが、年功序列的な運用が残り、結局は一時的なコスト削減策に堕していた。それが、この30年間、日本が変われなかった原因の一つだ(詳細はPART2をご覧ください)。

日経ビジネス2020年9月14日号 26~33ページより