ヒト・コミュニケーションズはそれを基に、営業支援をしている店舗の販売政策をタイミングよく変える。「いつ、誰が何に関心を示し、購入しているかといった解析からきめ細かく商品を入れ替えたり、ウェブ広告を効果的に打ったりする」(同社の高橋佳太デジタル・マーケティング事業推進室長)のである。勘と経験で分析していた従来の販売を一変させて、店舗の生産性を引き上げようとしているのだ。

 同社は07年6月に、EC(電子商取引)で商品企画から販売・代金決済、物流などのサービスを一貫して手がけるビービーエフを買収し、ECなどの支援事業も本格化させている。IT技術による生産性引き上げは、こちらでも取り組んでおり、「リアルとネット双方からサービス産業の競争力を高める」(安井社長)という。

日本は主要国のなかでも賃金が伸びていない
●主要国・地域の1人当たり賃金指数の推移
<span class="fontSizeM">日本は主要国のなかでも賃金が伸びていない</span><br>●主要国・地域の1人当たり賃金指数の推移
(写真=PIXTA)
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 上のグラフは、主要国・地域の労働者1人当たりの名目賃金の推移だ。日本だけが圧倒的に伸びていないことが一目瞭然だ。経済成長の停滞が長く続いた一方で、労働法制が厳しいこともあって企業が従業員の賃金を抑制することで雇用を維持してきた結果でもある。

 賃金の抑制は消費を抑え、さらなる低成長とデフレ状態を呼び込む悪循環ともなった。「全就業者の7割を超えるサービス産業を徹底改革すること」(青木大樹・UBS証券日本経済担当チーフエコノミスト)がこの閉塞を打ち破る条件となる。

日立のM&A、トヨタの「発明」

 では、大企業はどう続いていくべきか。日立製作所は7月初め、スイスの重電大手ABBから送配電事業を買収する手続きを終えた。同事業は再生可能エネルギーの増加で成長市場になると期待されている。

 ABBの事業基盤と日立のITの力が補完し合うことで競争力を高めるのが買収の狙いだ。日立が手薄だった北欧や東欧、中東などの事業基盤を広げるきっかけにもなる。

 海外の大企業を買収して成功させた日本企業は少ないだけに道のりは平坦ではないが、日立の東原敏昭社長は闘志をのぞかせる。ABBの事業買収について、「世界の地域が共通で使える人事や調達、財務などのプラットフォームの構築と、各地域の顧客の課題を受けてプロジェクトを計画できるフロント部隊の編成。それができれば、日立もやっと真のグローバル企業への仲間入りができる」と話す。

 従来の延長線上にない領域に踏み込むのはトヨタ自動車も同じだ。21年1月に子会社を再編する形でソフトウエアの新会社「ウーブン・プラネット・ホールディングス」を新設。社名からあえてトヨタの称号を外し、スマートシティーなど新領域の事業の「発明」に挑む体制をコロナ禍でも立ち上げる。

 こうした大胆な決断の実行には、ヒトの力は欠かせない。自らの未来を自分で切り開こうとする人材と、企業という船を成長領域へと導く経営の力。その両輪がかみ合わなくては日本再興への道は開けない。

日経ビジネス2020年9月7日号 38~41ページより

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