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人材の潜在性を生かす国に
松尾 豊氏[東京大学大学院教授]

(写真=山下 裕之)

 日本全体の人の潜在的能力は高い。スタンフォード大学やシンガポール大学でも客員で教えたが、それらと比較しても東京大学の学生のポテンシャルはすごいと思う。

 ただ、社会の中での役割ができていない。物理や化学など基礎研究はいまだに世界の中でも相当強い。ただ、そうした技術を使って産業を支えたり、社会の変化を後押ししたりということに関しては、世界のトップ大学に比べ、仕組みが十分できておらず、意識も低いと感じる。

 明治維新のときは新しい国をつくる人材を育成し、第1次世界大戦の後は技術立国という目標を掲げて新しい技術を担える人材を育成するなど、どのような人材を育てるのかが明確だった。しかし今はどういう人材を育成したらいいのかという議論がない。はんこの問題と同じで、根本的なことを考えなくなってしまっている。

 資本主義社会の中では、自ら事業を立ち上げることが基本だ。ある人が立ち上げた事業が経済が発展していく中で成長し、大企業が生まれて、その大企業に就職するというのがある種の社会的なステータスになっていた。

 今は変化の時代なので、大企業で働くことが必ずしもいい選択肢ではなくなっている。であれば、原点に戻って自分で事業を立ち上げることがとても自然な形だと思う。

 事業でもうけたい、事業を成長させたいという個々の思いがあって、それが結果的に社会貢献にもなるのが、資本主義経済の基本だ。結果的に日本が強くなればいいと思うが、まず自分が強くならないとだめだろう。(談)