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中小企業の多さが非効率を生んでいた側面は否めない。企業の体を維持することにとらわれない、技術や雇用の残し方もあるはずだ。本当に成長する意欲を持つ中小企業を支援する体制を整備すべきである。

ナカバヤシは、鶴谷哲也さん(左)の写真プリント技術を活用したケーキに引かれ、支援を申し出た(写真=山田 哲也)

 「この年齢で上場企業に雇ってもらえただけでもありがたい。しかも今までと同じ、好きな仕事を続けられる」。エクレアやシュークリーム、ケーキなど、さまざまな洋菓子が所狭しと並ぶ店内を眺めながら、35歳の鶴谷哲也さんはうれしそうに話す。

 ここは兵庫県姫路市の姫路駅から少し離れた住宅街。鶴谷さんはつい2カ月前まで、同じ駅前にある繁華街の一角で「鶴谷洋菓子店」を営んでいた。だが、新型コロナウイルスの影響で売り上げが激減し、6月14日に閉店した。

 2016年に開業、似顔絵やキャラクターをあしらった特注ケーキが口コミで人気を呼び、インターネットのスイーツ注文サイトでは兵庫県人気ナンバーワンを獲得。店舗での洋菓子販売以外にも、スーパーへの卸販売や飲食店向けの仕出しなど、事業を少しずつ拡大し、年商は4000万円を超えた。

 しかしコロナ禍でこうした需要が一気に蒸発。月180万円かかる固定費を賄えなくなった。事業拡大に向けて新しい設備を購入したばかりだったので手元資金は500万円しかなかった。「このままでは潰れる」と日本政策金融公庫や信用保証協会のコロナ融資にも駆け込んだが、4月時点で「8月面談、融資の実行は早くても9月」という、厳しい現実を突きつけられた。

 そんなとき、支援を申し出る会社が現れた。アルバム大手メーカーのナカバヤシだ。同社は今年2月、写真データを食用インキで印刷して作る鶴谷さんの誕生日ケーキに注目。自社の写真アプリと連動したサービスを提供することで話を付けていた。鶴谷さんから「6月に廃業します」と報告を受けると「人気店を何とか存続できないか」と社内で検討が始まった。その結果、同社の新規事業部に配属する形で鶴谷さんを雇い、洋菓子店を再開することとなった。今後は写真を印刷した冷凍ケーキの販売や、文房具とスイーツが楽しめるカフェの開設なども視野に入れて事業を進めていくという。

中堅企業、大企業に集約

 コロナ禍で鶴谷さんの会社のように救済される中小企業は極めてまれと言えるだろう。資本の少ない中小企業の大半は、需要や販路を失った途端に経営を維持できなくなる。人気店とはいえども潰れてしまうのはそのためだ。

廃業企業は生産性が約3割低い
●存続企業、開業企業、廃業企業の労働生産性
注:2012年から16年の間の存続企業、開業企業、廃業企業を比較。値は中央値
出所:2020年版「中小企業白書」のデータを基に作成

 日本の従業者数の約7割が中小企業で働いているだけに、雇用への影響も懸念される。しかし、元ゴールドマン・サックスのアナリストで日本経済を30年にわたり研究している小西美術工芸社社長のデービッド・アトキンソン氏はこう話す。「コロナ禍で倒産・廃業に追い込まれているのは日本の企業数の8割以上を占める小規模事業者がほとんどだ。小規模事業者の1社当たりの平均社員数は3.4人。規模の小さい会社が廃業したり倒産したりしても、雇用に与えるダメージは軽微だ」

 300万を超す日本の中小企業の数は多過ぎで、半分以下にすべきというのが彼の持論だ。「日本人はコロナによる廃業や倒産を恐れ過ぎている。これを機に、小規模事業者の数を減らし、中堅企業、大企業に労働者を集約させる政策を打つべきだ」と指摘する。

 その理由は生産性だ。下図は業種ごとに大企業と中小企業の生産性を比較したものだが、製造業や小売業など約2倍の差が出ている業種も少なくない。

生産性は業種によって2倍以上の開きがある
●大企業、中小企業の労働生産性と労働構成比
出所:2020年版「中小企業白書」

 企業の規模が大きくなるほど、設備新調や研究開発といった生産性向上への投資がしやすくなるのは周知の通りだ。分業や機械化も進めやすい。

 15~64歳の生産年齢人口は30年、6773万人まで落ち込むと予測されている。人口減少時代において、「労働力」という貴重な経営資源を生産性の低い小規模事業者中心に分配するのではなく、中堅企業、大企業に寄せていく産業構造へと変えることが、この国全体の生産性向上の一つの手段だ。