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コロナ禍は事業の弱点をあぶり出し、経営者に存続の判断を迫った。「職人の誇り」も「老舗の伝統」も厳しい変化の前に吹き飛んだ。もはや廃業は「後継者不在」に悩む事業主のものだけではない。

阿波おどりのクライマックス「総踊り」の様子。例年8月12~15日の4日間開催され、100万人を超す観光客が訪れる(写真=毎日新聞社/アフロ)
 CASE 1  コロナで観光破壊
「阿波おどり」消えて地域消沈

 “ぞめき”のリズムと人いきれに包まれるはずの徳島市の8月。今夏は蝉(せみ)の声だけが街にむなしく響いていた。400年を超える歴史を誇る徳島の阿波おどりが新型コロナウイルス感染症の拡大で中止となった。毎年8月12~15日に開催される国内有数のイベントが全日取りやめになったのは戦後初だ。国内外から100万人を超える観光客が訪れる阿波おどりが消えた影響は、徳島の経済に大きな影を落としている。

 阿波おどりの中止が決まったのはコロナ禍が深刻化し始めた4月。それから1カ月以上がたった6月1日から15日にかけて、阿波銀行系列のシンクタンクである徳島経済研究所(徳島市)とNHK徳島放送局は、徳島県東部エリアの宿泊施設に「阿波おどり中止による経済影響」と題したアンケート調査を実施した。

回答者の3割「廃業を検討」

 その結果、厳しい現実が見えてきた。阿波おどりの中止が発表されてから寄せられたキャンセル数は延べ1万2628人泊分。同期間中は宿泊単価も高くなるため、予約取り消しによる損失額は合計2億450万円に上ることが分かった。例年、阿波おどり期間中の客室稼働率は平均で84%となり、満室になる宿泊施設も多い。今年の予約状況を見ると16.6%にとどまり、6月上旬の時点で予約がゼロの宿泊施設の割合は37.7%に上った。

 同アンケートは166の宿泊施設に配布しており、64件(有効回答率38.6%)から回答を得ている。「廃業を検討する可能性」を聞いたところ、「可能性がある」と答えた宿泊施設が19件、「既に検討/廃業決定」が1件あった。合わせると約3割の施設が廃業を検討していることになる。

阿波おどり中止の影響などで3割が「廃業の可能性」と回答
●徳島県東部でホテル・旅館を廃業する可能性
出所:徳島経済研究所の資料を基に本誌が作成

 廃業検討のきっかけは、「新型コロナ感染拡大と阿波おどり中止の両方」との回答が最も多かった。調査を実施した徳島経済研究所の元木秀章上席研究員は、「収容人数が25人以下から100人以上まで様々な規模の施設から回答を得たが、規模の大小にかかわらず多くの事業者が『廃業の可能性』を訴えている」と明かす。

インバウンド需要はほぼ全滅

 阿波おどり中止が与える影響は宿泊施設のような直接、観光産業に関わるものにとどまらない。飲食店には客が入らず、土産物なども売れないため、近隣の農林漁業など1次産業生産者にも大きな影響を及ぼす。外国人旅行者によるいわゆるインバウンド需要も見込めないとなれば、観光関連産業には中長期的な支援策が必要となる。しかしアンケートでは、宿泊施設の8割が「公的支援が不十分」と回答している。

 宿泊業が苦しいのは全国的な傾向だ。観光庁が7月31日に発表した「宿泊旅行統計調査」によると、2020年5月の延べ宿泊者数は前年同月比84.9%減の779万人泊で、インバウンドが消失した外国人の延べ宿泊者数は同98.7%減の13万人泊だった。

宿泊者数は2月以降に激減
●延べ宿泊者数前年同月比の推移

 徳島県だけで見ると同月の延べ宿泊者数は同87.2%減の3万2360人泊となる。19年5月に57.9%だった平均客室稼働率は10%まで下落した。足元ではわずかに旅客が戻りつつあるものの、高い客単価が望める阿波おどりがなくなったことで、多くのホテルや旅館が存続の危機にさらされている。

 そもそも徳島は観光に弱い県だ。観光庁の「宿泊旅行統計」によると、徳島県の延べ宿泊者数(年間)は19年まで5年連続で全国最下位。政府肝煎りの旅行振興策「Go To トラベル」キャンペーンも、阿波おどりというキラーコンテンツがなければ、その恩恵にあずかれない。「阿波おどり期間は、徳島において特別なシーズンで、単なる365日分の4日間ではない。シーズン中の売り上げを他の期間で取り返すのは大変難しい」と元木上席研究員は話す。

 「12月まで様子をみる。以降も赤字が続くようなら、廃業を考える」──。

 こう話すのは、ホテルサンシャイン徳島の梯(かけはし)学・総支配人だ。19年はインバウンドや空海ゆかりの寺院を巡るお遍路などの追い風を受けて、宿泊者数が増える傾向にあった。20年以降も予定通り東京五輪・パラリンピックが開催されていれば、観光が活性化する淡い期待もあったという。