全3729文字

コロナ禍で中小企業や個人事業主の廃業問題が深刻度を増している。件数は前年比で23%増えており、過去最大となるのは確実。廃業を止めるのではなく、新たな時代に向けた新陳代謝を促すときだ。

 「廃業に必要な費用を負担する余裕があるところは、どんどん廃業を考えるようになっている。廃業する体力すらない会社の中には、存続するためにずるずると借り入れを増やしているところもある」。西日本のある中小企業の経営者はこう声を潜めて話す。

倒産減少、休廃業・解散は急増

 倒産は法的な整理を伴うケースが大半のため目に付きやすいが、休廃業・解散はあくまでも自社の判断に基づいて行うため目立たない。関係者以外に知られないまま、ひっそり事業を閉じるケースも少なくないが、最新の調査によってコロナ禍における休廃業・解散の一端が浮かび上がった。

 早稲田大学の齊藤有希子准教授らはコロナ禍の「退出企業数」の研究を実施した。退出企業数とは、倒産、被合併に、休廃業・解散に当たる「自主的退出」を合わせたものだ。その数は今年1~5月で3万1335社となり、前年同期間比16%増と大幅に増えている。コロナ禍の厳しさが鮮明だが、注目すべきはその内訳だ。倒産が8%減少、被合併が6%減少なのに対し、自主的退出は23%増と大幅に増加した。

出所:早稲田大学齊藤有希子准教授らの共同研究から。東京商工リサーチのデータベースを用いて作成

 倒産の減少は、特殊な事情もありそうだ。この期間、緊急事態宣言が発令されたため裁判所の手続きが遅れたほか、債務超過に陥って本来ならば倒産したであろう企業が、政府による中小企業に対する支援で倒産を免れたケースもある。日本の企業退出は、休廃業・解散が高い比率を占めることが知られているが、倒産との差がさらに開いた。

 齊藤准教授は「コロナ危機が自ら事業をやめる引き金になっている。経済的に脆弱な企業だけでなく、経営が健全でも後継者の確保が困難な企業がこの時期に自主的退出をしていた可能性がある」と指摘する。

 過去の経済危機と違い、コロナ禍は収束などの先行きが見通せない。中小企業の経営者から売り上げや顧客を奪っただけでなく、「事業を継続する気力」すら奪い取った可能性がある。休廃業・解散の急増はそんな中小企業の姿を映しているのだろう。政策対応によって実質無利子・無担保の融資の仕組みは整ってきたが、「融資はあくまで借金。お金を借りたら、いつかは返さなければならない。それならば今のうちにやめようと考える経営者は多い」とある調査会社の担当者は話す。

 休廃業・解散の急増は日本で既に始まりつつある「大廃業時代」をさらに加速させそうだ。2017年秋に経済産業省が試算した資料によると、25年には、経営者が70歳を超える中小企業が全体の6割を超え、約245万社に達する。このうち半分の約127万社が「後継者が未定」で事業継続に不安を抱えた状態になる。つまり中小企業の3分の1が「廃業予備軍」である。経産省の試算は、これが大廃業の時代につながると警鐘を鳴らした。

 例えば重要な技術を持つ中小企業が後継者難で消えれば大きな損失になる。開業率が低い地方の場合には、地域経済の縮小が進む懸念もある。日本経済全体に対する影響は大きく、このまま続くと25年までに国内総生産(GDP)約22兆円、約650万人の雇用が失われる見込みだ。経営者の平均年齢は年々上がり、大廃業時代は待ったなしだったが、ここにコロナ禍が重なり、深刻さを増すことになった。東洋大学の山本聡教授は「コロナ禍は当初、企業にとって感染者拡大による活動制限の影響が大きかったが、景気後退が長引けば経済的ダメージが深刻になる。大廃業時代の想定を大きく上回る“超廃業時代”になるかもしれない」と指摘する。

日経ビジネス2020年8月31日号 26~29ページより