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新型コロナウイルスは企業にとって、危機が連鎖するというこれまでにない脅威となった。最初に中国からの部品供給が止まり、次いで欧米の都市封鎖による需要ショックが続いた。サプライチェーン(供給網)を世界に張り巡らす企業は、幾つもの新たな試練に直面した。

 「地方政府から工場閉鎖の指示は来ていないか」「部品の在庫をあるだけ日本に発送してもらえないか」

 1月下旬、広島県府中町。マツダ本社で、購買部門の担当者たちが中国の情報の確認に追われていた。湖北省で新型コロナの感染が広がり、同省の武漢市や近隣地域で自動車部品工場が相次ぎ生産を停止していたからだ。

 中国製部品の供給途絶は、マツダのグローバル生産網を根本から揺るがす。部品の届け先は、江蘇省南京市、吉林省長春市のマツダ車を生産する中国の工場だけでなく、日本やタイ、メキシコと世界に及ぶ。

「レッドリスト」の作成急ぐ

自動車部品は中国依存度が高い
●日本の輸入額に占める各国・地域の割合
注:財務省貿易統計を基に日本自動車部品工業会調べ、2018年の日本の輸入総計2兆5602億円の各国からの割合

 日本自動車部品工業会によれば、日本の自動車部品輸入額2兆5600億円(2018年)のうち、中国は30%と全体の3分の1を占める突出ぶりだ。自動車メーカーに限らず、中国から世界への部品供給に依存していた多くの日本企業が苦しんだ。

 マツダはまず、供給が途切れる恐れのある部品「レッドリスト」づくりを急ぐ必要に迫られた。同社の購買部門は、1次取引先であるティア1企業が部品を調達するティア2企業以降の情報もたどれるシステムを使い、1台当たり約3万点ある部品の中で、中国から調達できなくなりそうな品目、生産企業、拠点を数日で洗い出した。ランプ、シートの革や布の縫製品、ワイヤハーネスなど電装関連品……。様々な部品、部材が並んだ。

 このシステムは東日本大震災で調達先の情報把握が遅れた反省から導入し、18年の西日本豪雨では影響がある調達先を半日で突き止めた。

 今回もシステムは機能した。だが、すべての部品の在庫状況を現地で詳しく把握することができたのは3月になってからだった。2月に中国の各都市が封鎖され、マツダ、サプライヤーともに従業員が工場に入れなかったのだ。

 購買・生産・物流を担当する菖蒲田清孝取締役専務執行役員は、原因を突き止めているのにあと一歩前に進めないもどかしさに困惑した。「現地工場に立ち入り禁止のような状況が続き、情報をつかむのに時間がかかった」という。

 それでも何とか生産しなければ、販売機会を逃してしまう。2月から3月にかけ、菖蒲田専務は世界の生産計画を練り直した。中国から部品が届かない中でも「生産が落ちるのをカバーしようと全力を注いだ」。

 具体的には、例えば足りない部品を同じサプライヤーの別工場で代替生産してもらった。また日本で完成車を生産するため、メキシコで扱う同一車種の部品を日本に輸入した。他にも類似部品の改造など、数多くの代案を試して日本やタイ、メキシコの工場を稼働させた。感染が中国一極に集中していた「第1段階」ではこうした方法で試練を乗り切ろうとした。

日経ビジネス2020年8月17日号 28~31ページより