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列強に侵略された「屈辱の100年」を晴らすかのように、中国は他国を威圧し始めた。米国のトランプ政権は禁輸措置などを総動員し、中国の封じ込めに乗り出した。政治と経済は別物とし、中国ビジネスを広げてきた日本企業も人ごとではない。

カンボジアに到着した中国の医療チーム。中国は世界規模で「マスク外交」を展開する(写真=AFP/アフロ)

 今春、新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむ各国の空港に、中国からマスクや防護服などの医療物資が続々と届けられた。

 取材陣が待ち構える中、チャーター機のタラップから降りてくる医療チームを現地の要人らが拍手で出迎える。その次は横断幕を掲げながらの記念撮影だ。中国を象徴する赤地に「ともに乗り越えよう」などと鼓舞するスローガンが書かれているところは、いかにも中国らしい。

 大々的に執り行われる式典はこれがただの医療支援事業でないことを物語る。西側諸国はプロパガンダ(政治宣伝)が目的の「マスク外交」と見なす。

 中国当局が初期対応を誤ったために新型コロナが世界中に拡散した。中国に付いてしまったそんなマイナスのイメージを、「世界に手を差し伸べる国」というプラスのイメージに転換するのが狙いだ。

150カ国支援の真の狙い

 中国が重点的に支援したイタリア、インドネシア、パキスタンといった国々を眺めると、ある共通点が浮かび上がる。その多くは中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が2013年に打ち出した広域経済圏構想「一帯一路」の参加国だ。中国と欧州を陸路と海路でつなぐ地域の国々に資金を貸し付け、道路や港湾、鉄道、ダムなどのインフラを整備することで交流を加速し、親中の経済圏を構築するという壮大な構想である。

沿線国周辺のインフラ整備で勢力拡大
●中国の広域経済圏構想「一帯一路」
スリランカでは中国人技術者が見守る中、一帯一路の枠組みで高速道路の建設が進む(写真=Paula Bronstein/Getty Images)

 中国は一帯一路に未参加のフランスやオランダ、スペインなどにも医療物資を援助した。「責任ある大国」との印象を与えることで、参加に向けた下地を整えているようにも見える。

 ただ一帯一路は計画通りに進んでいるわけではない。モンゴル、ラオス、パキスタンなどでは中国からの巨額の貸し付けが国の返済能力を超えている恐れがある。開発を受注するのは中国企業、建設に従事するのも中国人労働者で、地元の恩恵は少ない。国が借金漬けになるだけとの不満からザンビアなどでは中国への反感が強まっていた。

 そこに追い打ちをかけたのがコロナ禍だ。習政権はピンチをチャンスに変えようと、マスク外交を展開。しかし勢力圏拡大の試みは前途多難だ。

日経ビジネス2020年8月3日号 38~43ページより