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中国の4〜6月の実質GDPはプラスに転じ、コロナ禍から抜け出したことを印象付けた。政府は政策主導で生産や投資を回復。現在は雇用や消費のテコ入れに躍起だ。半導体やワクチンなど「コロナ後」への投資も。その成否は世界を揺るがしかねない。

ライブ配信ナンバー1の村の浙江省北下朱村では、路上で突然配信が始まることも

 「網紅直播第一村」。上海から3時間ほどの場所にある浙江省北下朱村の別名である。「網紅(ワンホン)」とはネットインフルエンサー、「直播」は生放送を意味する。ネットインフルエンサーによるライブ配信でナンバー1の村というわけだ。実際、同村にある商店のほとんどがライブ配信によるネット販売を手掛けている。さらに、ネットインフルエンサーの育成を地元政府が強力に後押ししている。

 ライブ配信によるネット通販の稼ぎ時は多くの人が自宅でくつろぐ夜だ。ところが7月上旬の午後3時過ぎ、北下朱村に到着した記者が村内を歩いていると、道端で女性が突然ライブ配信を始めた。

 スタンド型の専用照明にスマートフォンを取り付けて満面の笑みで流ちょうに商品を売り込んでいる。どうやら夏向けに冷感グッズをアピールしているようだ。「恐らく抖音(ドウイン)向けの動画ですね」と案内してくれた人が教えてくれた。

 抖音は北京字節跳動科技(バイトダンス)が提供する動画配信アプリだ。同社が日本など世界各国で提供しているほぼ同機能のアプリが「TikTok」である。異なるのは、オンライン販売やゲーム機能を備えていること。スマホユーザーが見たいタイミングで動画にアクセスできるので、撮影時間を選ばないメリットがあるのだという。

 北下朱村では、多くの店に「インフルエンサー求む」と書かれた紙が張り出されていた。商品をライブ配信で販売する「ライブコマース」と呼ばれる手法は以前からあったが、昨年ごろから急速に普及してきた。ユーザーはネットインフルエンサーや店主、生産者などによる商品説明を視聴する。日本で言えばテレビショッピングに近い。アリババ集団のネットモール「淘宝(タオバオ)」や京東集団の「JD.com」などがアプリ内でライブ配信サービスを提供しているので、配信を見て思い立ったらその場でタップすれば購入完了だ。

 新型コロナで多くの人が家に閉じこもりスマホに向き合う時間が増える中で、消費者にアピールできる販売手段としてすっかり定着した。中国エアコン大手の珠海格力電器(グリー)を率いる董明珠・董事長は、4月下旬に自らライブコマースを始めた。6月18日のセール日など計5回にわたってトップセールスを実施し、累計178億元(約2730億円)超を売り上げた。

 ライブ配信の村である北下朱村の近隣には「タオバオ村」として知られる青岩劉村もある。青岩劉村には、タオバオなどに出店するネットショップや配送業者が軒を連ねている。ネット販売を産業振興の軸に据える村は中国各地に存在するが、地元政府のバックアップの下で2007年ごろからネット販売に取り組んできた青岩劉村はその中でも最大規模という。成功事例として14年には李克強(リー・クォーチャン)首相も視察に訪れた。

青岩劉村には政府が設けたスタジオがある(写真左)。義烏国際商貿城内にある卸売業者のブース(写真右)

 同村も官民一体となってライブ配信に注力している。地元政府がスタジオを作り、ショップに24時間無料で貸し出す。ライブ配信のスキルやノウハウを教える講座も無料提供している。「独身の日(11月11日)などの繁忙期には役人もボランティアで発送作業を手伝っていますよ」と地元政府の担当者は話してくれた。

日経ビジネス2020年8月3日号 32~37ページより