全4409文字

新型コロナウイルスは資本主義経済の根幹となる雇用を揺るがしている。欧州では雇用維持策の期限切れに伴い一部で失業率が2割を上回るとの予想もある。以前から続いていた格差拡大と低成長の構図が、さらに深まろうとしている。

米アルミ大手アルコアによるスペインの精錬所閉鎖と従業員解雇方針への抗議運動(写真=Cristina Andina/Getty Images)

 東京都内の保育園で保育士として働いている山下明代さん(仮名)は、園長からその話を聞かされた時、耳を疑ったという。今年4月末のことだ。

 園長:「休園中に山下さんが休んだ日の給与は出るかどうか分かりません」

 山下さん:「そんな……。なぜですか」

 山下さんが働く保育園は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて国が4月7日緊急事態宣言を出した直後から、宣言が解除された5月末まで休園した。その間は警察官など生活を支える人たちの子供だけを預かり、保育士の一部が交代で勤務することになった。保育士は週2日程度の出勤となり、その他の日は休みに。この休み分の給与が出ないかもしれないと言い渡されたのだ。

 山下さんはこの保育園の正社員としてではなく、派遣会社を通じこの保育園で働いている。労働者の支援団体に相談して保育園を経営する社会福祉法人と交渉を始めた。社会福祉法人は、当初は労働基準法で定められた本来の給与の6割を支給するとしたが、「思い違いがあった」として最終的には全額を支払うことになったという。

 しかしほっとしたのも束の間、今度は派遣契約を更新しない申し出をされ、さらに厳しい局面に立たされている。

4~6月の就労時間14%減

死者数は約50万人に達した
●新型コロナの国別の感染死者数
出所:米ジョンズ・ホプキンス大学のデータを基に本誌作成。6月24日時点

 新型コロナは世界で雇用を直撃している。国際労働機関(ILO)は6月30日、世界の4~6月期の就労時間が2019年10~12月期に比べ14%減ったと発表。5月下旬の予測(10.7%減)を下回った。

 外出制限などロックダウン(都市封鎖)が長期化し自宅待機を強いられた労働者は多い。日本でも緊急事態宣言下、外食やホテル、小売りなど多くの業種で休業が長く続いた。東京商工リサーチの調べによると、感染が本格化した今年3月から7月3日までのコロナ関連の経営破綻は計307件。破綻に至らないまでも、派遣などの雇い止めや解雇などが急増している。

日本でも雇用環境は急速に悪化する恐れ
●日本の完全失業率の推移
注:2020年第2四半期以降は予想
出所:クレディ・アグリコル証券のデータを基に本誌作成
(写真=共同通信)

 国内の5月の完全失業率(季節調整値)は2.9%と前月比0.3ポイント悪化し、完全失業者数は198万人と同9万人増えた。クレディ・アグリコル証券の森田京平チーフエコノミストの推計では、失業率は4~6月期に3.5%に急伸する可能性があるという。

 しかも、「サービス業に多い非正規の女性が、雇い止めなどでこれまでにないほど生活を脅かされている」(大沢真知子・日本女子大教授)。5月の非正規労働の雇用者数は前年同月比61万人減。冒頭のようなケースは珍しくなくなっている。

日経ビジネス2020年7月13日号 28~31ページより