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コロナ禍で売り上げが落ち込み、自社の商売がどうなるのかまるで分からない──。そんな厳しい状況でも「見てはいられない」と社会や社員のために動いた企業がある。彼らを突き動かしたものは何か。決断の舞台裏を取材した。

CASE1 三幸製菓
リスク承知で80人大雇用 地方菓子メーカーの心意気

 業績不振に伴う突然の退職勧奨、体調を崩し欠勤した派遣社員の雇い止め、試用期間中の新入社員を狙い撃ちにした内定撤回……。コロナ禍での日本経済や雇用への影響がいよいよ顕在化し、暗いニュースが流れ始めた4月下旬、思わぬニュースが新潟から伝えられた。

 「新潟の三幸製菓、県内で大規模雇用、正社員含め80人」──。巨大グローバル企業ではない地場企業が、このご時世に人を雇うという。新たに雇用する80人のうち50~60人は正社員として採用。同社の社員はおよそ1000人だから、確かに“大規模雇用”と言っても差し障りない。

 三幸製菓は新潟市に本社を置く業界第2位の米菓会社だ。亀田製菓なども拠点を構える「米菓王国・新潟」にあって、最後発ながら独自の商品開発などを武器に業績を拡大してきた。2019年9月期の売上高は558億円。1977年に発売した、煎餅に白砂糖をかけた“しょっぱいのに甘い”「雪の宿」など、多数の看板商品を持つ。

 だが、地元の新潟県もコロナ禍で雇用情勢は悪化の一途をたどる。例えば4月の県内有効求人倍率(季節調整値)は、前月から0.04ポイント低下し1.35倍。4カ月連続の下落で、3年8カ月ぶりの低水準になった。

 地域経済も芳しくはない。3月には街の象徴だった新潟三越が113年の歴史に幕を閉じた。厚生労働省はこのほど、新型コロナに関連した解雇や雇い止めは見込みを含めて2万6000人を突破したと発表したが、その波は早晩、地方中核都市にも押し寄せかねない。

 そんな危機迫る状況だけに、三幸製菓の緊急雇用は地元でも大きな話題を呼んだ。

「救われた。これで生きられる」

 募集したのは工場で主に菓子製造に当たる人材。学歴、経験も問わないとあって6月中旬までに300人の応募が寄せられた。

 「本当に救われた。これで生きていける」。新たに採用された一人、新潟市内に住む串田美和さん(27)はこう話す。今年2月、派遣社員として働いていた新潟県内の製造業を退社。新型コロナ感染拡大期とあって、新たな職探しは難航を極め、ハローワークからは「今、製造業で働ける所はゼロ」と告げられた。しかし今、三幸製菓の看板米菓の一つ、チーズアーモンドの製造部門で働いている。

 「拾ってもらえて感謝しかない。少しでも貢献できるよう、気持ちを新たに頑張りたい」。こう明るい表情で話すのは、同じ新潟市内在住の小林泰さん(59)。「どんな仕事でもする」という決意で、募集のあった製造ラインオペレーターに未経験ながら応募。会社側の計らいで、これまでの経験が生かせる総務部門に配置された。

日経ビジネス2020年7月6日号 26~37ページより