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災害時の非常用電源としての顔を持つ「リーフ」。新技術を生み出してきたもう一つの顔だ。あらゆるステークホルダーと向き合い、謙虚さと原点を取り戻すことが復活の条件となる。

熊本日産の販売店が持つEV「リーフ」は、災害などによる停電時に給電車として活用される(写真=浦川 祐史)

 人口約74万人の熊本市で電力の地産地消が進んでいる。きっかけは2016年4月の熊本地震だ。震度7の揺れが2度発生し、2週間で震度5以上の余震が20回にのぼった。土砂崩れなどで送電システムが断裂。ソニーやホンダの工場は止まり、地域への電力供給は途絶えた。

 熊本市はこの経験から、ゴミ焼却施設から発生する電力や余熱を活用し公共施設の40%の電力を自前で賄う仕組みを導入した。ただせっかくの電力も市内が停電すれば必要な場所に届けることができない。電力網の「バイパス」造りに関係者は頭を悩ましていた。

 この課題を解消したのが日産自動車だった。使うのは、市内外の日産販売店14カ所にあるEV(電気自動車)「リーフ」。熊本市は日産の提案を受け、19年7月に連携協定を締結。ゴミ処理施設の近くにEV充電拠点を備え、電力をいつでも取り出せるようした。

避難所にリーフが駆け付ける

 地震や大雨などによって停電が起こると、試乗用のリーフがEV充電拠点に集まり、電気を避難所や病院など必要な場所に運ぶのだ。1台で避難所1カ所の半日近い電力を賄える。「日産がいたからここまでの計画ができた」と熊本市の担当者は話す。

 日産は昨年の台風で甚大な被害を受けた千葉県市原市や長野市など全国約40の自治体と同様の協定を結んでいる。販売に直結するわけではないが、「地域コミュニティーとの密接な関係こそが我々のいる意味」(販売会社、熊本日産の古荘雅教社長)。レバノンに逃亡したカルロス・ゴーン被告(元会長)と空中戦を繰り広げていた日産のもう一つの顔だ。

 「人々の生活を豊かに」。日産がこの言葉をビジョンとして掲げたのは00年前後だが「精神自体はそれ以前から会社の根っこにあった」(関係者)。リーフの発売は10年12月。NECとの共同出資会社(当時)で生産するリチウムイオン電池などを武器に、国内では政府の補助金を利用すれば300万円を切る価格を実現した。

 11年の東京モーターショーでは、リーフを電力供給源として活用する住宅のコンセプトを展示。まだ量産型EVが珍しかった10年前に、災害時の非常用電源とすることを提案していた。「技術を単に開発するのではなく、社会システムにおける役割を考えてきた」と浅見孝雄専務執行役員は話す。

日経ビジネス2020年6月29日号 39~41ページより