全3663文字

今後の自動車メーカーの競争力を左右する電動化や運転支援の技術。フルには生かし切れていないが、日産にも世界で戦えるポテンシャルは十分ある。開発現場の底力を生かせるかどうかは、マネジメント次第だ。

仲田直樹氏(写真2枚目)らが開発した電動化技術「e-POWER」は日本投入から4年近くを経てSUV「キックス」(写真3枚目)など主力車種で世界展開へ。2019年のジュネーブ国際モーターショーで世界初公開した、e-POWERを搭載したコンセプトカー「IMQ」(写真1枚目)

 「リーフのモデルチェンジを手伝ってよ」──。2009年、パワートレイン・EV技術開発本部パワートレイン主管(現)の仲田直樹氏に先輩から声がかかった。仲田氏は走行性能で数千万円のスーパーカーをしのぐといわれる「GT-R」のエンジン開発に携わった経験を持つ。エンジンから電気自動車(EV)の開発へ。それこそが日産がよって立つことになる電動化技術「e-POWER」の始まりだった。

 e-POWERはトヨタ自動車やホンダのハイブリッド車(HV)のようにエンジンとモーターを切り替えて走るのではなく、エンジンは発電機に徹し、EVと同じようにモーターのみで走る。EV「リーフ」の技術が生かしやすく、かつエンジン開発を専門に手掛けていた技術者を引き込みやすい領域だ。

 日産がEVに走ったのはゴーン前会長の経営判断があったとされる。量販車メーカーで実用に足るEVが造れれば、HVを一気にしのぐと考えたというのが大方の見立てだ。

 しかしそのもくろみは外れた。リーフの累計販売台数は今でも100万台に遠く及ばず、17年時点で累計販売台数が1000万台を超えたトヨタのHVには大きく水をあけられたまま。そこを埋める技術が、エンジンとモーターの融合であるe-POWERだった。

 販売サイドや経営側からのプレッシャーは「すさまじいものがあった」(仲田氏)。しかも当時の開発陣には合理化を最優先する空気が立ちはだかった。開発期間は折しも日産が規模と収益の拡大を追っていた中期経営計画「日産パワー88」と重なる。単年度の全社予算が未達になるたびに「開発プロジェクトが次々に消えた」(日産OB)。

 e-POWERは16年、日本国内でまず小型車「ノート」への搭載にこぎ着けた。燃費性能の良さだけでなく、EVのような加速感のある乗り味が評判となり、トヨタの「アクア」やホンダの「フィット」を抜いて国内の登録車販売台数で1位を獲得した。

 今でも日産の登録車の販売ランキングを上から眺めると、ノートやミニバン「セレナ」といったe-POWER搭載車が並ぶが、PART1で見たようにいずれもフルモデルチェンジから時間がたった車種。せっかくの技術が「宝の持ち腐れ」になっている。

 そんなe-POWERもようやく世界販売に生かす段階に入る。小型多目的スポーツ車(SUV)「キックス」に搭載し、近くタイ市場への投入が決まった。同技術搭載車の海外生産は初めてで、キックスは新車不足に悩む国内市場にも投入する。EVとe-POWER搭載車で23年度までに国内販売の6割以上、年間100万台以上の世界販売を目指す。

日経ビジネス2020年6月29日号 32~34ページより