人を集めるほど価値が増すのが不動産。コロナ禍は「人の集中」をリスクと化した。不要論がせめぎ合うオフィスは景気後退も相まって、需要減が避けられない。今後は確実に格差が生じる。不動産の選別時代が一足飛びに訪れようとしている。

 JR新横浜駅から徒歩10分弱のオフィスビルの4階に、無機質な外観からは想像できないような開放的な空間が広がっていた。

 部屋の中央に木製の大型ベンチ、周囲にはガラス張りの会議室、バーカウンターやゆったりとしたソファ。大型テレビも置かれている。自由闊達な職場文化を好む、米シリコンバレーのIT企業が作りそうな空間だ。

 ところが“からくり”がある。シリコンバレー風インテリアを採用しているのはフロア全体の3分の1。残りのフロアは机や椅子を対向させて並べる昔ながらの島型レイアウトのままなのだ。

<span class="fontBold">アイルミッションの本社。採用活動を考え、開放的な空間を整えた。コロナ禍を経て、会社の顔としての役割を強めていくという</span>(写真=栗原 克己)
アイルミッションの本社。採用活動を考え、開放的な空間を整えた。コロナ禍を経て、会社の顔としての役割を強めていくという(写真=栗原 克己)

オフィスは人寄せの装置

 このオフィスは携帯電話会社の通信設備の施工管理や保守業務を手掛けるアイルミッション(横浜市)の本社。辻高志社長は「優秀な人材を集めるには“お化粧”したオフィスも必要」という。

 売り手優位の採用活動に苦戦し、考え抜いた末、2018年に取った一手がオフィス改装だった。費用はおよそ3000万円。年間利益の3割に迫るが、「優秀な人材は就職にあたって『自分が成長できる場かどうか』にこだわる。求人広告よりも投資対効果は上だ」と辻氏は話す。改装はいわば、採用市場を狙ったマーケティング投資というわけだ。

 辻氏は、コロナ禍を経て「このオフィスの意義が増した」と考えている。感染拡大を防ぐため原則5割出社をガイドラインとする一方で、「オフィスは会社の顔としての要素が強まった」からだ。作業の場ではなく、ランダムな社内交流を促し、深いコミュニケーションにつながるきっかけを得る場にしたい考えだ。

 コロナ禍はビジネスパーソンがオフィスの存在価値を考え直す契機になった。通勤しないで済む効率の良さや、目覚めてすぐのフレッシュな頭の状態で仕事に取り組む利点を多くの人が知った。それゆえに広がるオフィス不要論。一方でリアルに社員が集まる場をどう生かすかという議論も始まっている。

 脱オフィスの震源地であるスタートアップでも、オフィスの廃止や縮小を検討すると、その価値を再発見するケースがある。アイルミッションのように企業文化を育み、社員のエンゲージメント(企業への愛着)を高める場所として位置付けるという考え方だ。

 スタートアップ向けにオフィス仲介を多く手掛けるヒトカラメディア(東京・目黒)の高井淳一郎代表は「象徴性やメッセージ性のあるものにお金を払う傾向は強まっている。希少性のある物件はとことん高くなるのではないか」とみている。オフィスを必要最小限に縮小するが、代わりに六本木ヒルズに移転したい。こんな相談が実際に寄せられているという。

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