全6827文字

人口が密集した都会を離れて「そこそこ田舎」での暮らしを選ぶ人が増え始めている。人口流入が続いた東京も近い将来、減少に転じ、コロナの影響で“街間格差”が拡大する。長年の景気テコ入れ策で造った大量の住宅が、価格下落の引き金を引くかもしれない。

大洋村エリアに並ぶ別荘。海岸はすぐ目の前だ。コロナ禍を境に再び人気が出始めている

 「窓から見える水平線の真ん中辺りから朝日が昇るんですよ」。そう言って鹿島灘を一望する改装中の別荘を案内してくれたのは、横田和郎さん(仮名、33)と妙子さん(仮名、33)の夫妻だ。

 この物件は茨城県南東部の海岸沿い、鉾田市と鹿嶋市にまたがるエリアにある。2005年に市町村合併するまで大洋村と呼ばれていた。名の由来は日が昇る太平洋。1970年代からバブル真っ盛りの時期まで、首都圏のサラリーマンが買える別荘地として脚光を浴びた。

 バブル崩壊で地価が下落し建物も劣化して、大半が最近まで放置されていた。販売価格は当時の半値以下だった。

 こうした物件を購入し、リノベーションをしたいという需要がここにきて高まっている。販売を仲介する地場の不動産会社、大和ハウジングによれば、その中心は30代から50代のファミリー層。旧大洋村エリアの中古物件を問い合わせる首都圏在住者は、コロナ禍が深刻化した春ごろから急増し、「昨年の同時期に比べて2倍に増えている」(飯島稔社長)という。

 千葉県松戸市に住み、都内の金融機関に勤める横田さんもその一人。サーフィンが趣味で鹿島灘に一家でよく遊びに来ていた横田さんは、延べ床面積240m2の中古住宅を2300万円で購入。1900万円かけて全面改装している真っ最中だ。

 新型コロナを避けるためにも、横田夫妻は別荘を活用することになりそうだと考えている。緊急事態宣言中の外出自粛で、松戸の自宅では3人の子供たちがのびのび遊べなかった。和郎さんも「コロナ収束後も会社がリモートワークを奨励するなら、もっと別荘で過ごす時間を増やしたい」と話す。

 都会を離れる人が今、じわりと増えている。限られた敷地に高層の建物がひしめき合う都会ではウイルス感染リスクが高まりやすく、“疎開”する狙いもある。「タワーマンションは3密の条件がすべてそろっている。共用部分に窓のない所も多く、感染リスクは高い」。不動産評論家の牧野知弘氏は指摘する。

 感染が収まれば元通りの生活が送れるとの見方もある。だが「都会に住んで都会で働くという価値観がコロナを機に揺らいだ」と話すのは個人投資家に人気の投資信託「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長だ。

 藤野氏は4月下旬、これまで別荘として利用していた神奈川県逗子市にある中古戸建てを本邸にすることを決めた。ファンドマネジャーとして年間100社を超える企業の社長と面談していたが、今ではミーティングはほぼオンライン。海を眺めながら仕事をし、庭で野菜を作る。犬も2匹飼い始めた。

藤野氏の自宅の庭からは相模湾が一望できる
仕事部屋には大きな窓からさわやかな光が差し込む

 逗子市はJR横須賀線を使えば、レオス本社のある東京駅まで約1時間で行ける距離だ。都心までのアクセスが良い点も移住の決め手となった。

日経ビジネス2020年6月22日号 28~35ページより