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暮らしに身近な外食から電機まで、再編は幅広い業界で起こるだろう。プレーヤーとなるのは同業だけではない。ネット勢、海外勢を想定する必要性も高まっている。新型コロナウイルスの影響は大きく、今までの常識とは異なるシナリオも欠かせない。

 「2000億~3000億円で買収できるチェーンがあれば、そのときは頼みますよ」。 4月中旬、ホテルチェーンのアパグループ本社。元谷外志雄代表はメインバンクに、売却案件の情報共有や買収資金の融資を依頼した。

 新型コロナウイルスで再編のチャンスが訪れると判断し、すぐ動いた。キャッシュが手厚く、借り入れに頼らない経営を自負するが、今回は違う。5年後に提携先を含む全国の客室数を現在の1.5倍の15万室にする考えで、虎視眈々(たんたん)と買収を狙う。

 新型コロナによって、あらゆる業界で再編の可能性が生まれている。案件の進み具合に濃淡はあるが、新たなシナリオがいくつも浮上し始めていることが、各業界の動向から分かるだろう。

ペッパーが事業切り離し 川上企業の買収に親和性

 すでに再編の動きがあり、新型コロナで加速しそうなのが外食産業だ。

 「売上高1兆円のメガ外食が生まれるだろう」。焼肉店「牛角」など幅広い業態を持つコロワイドの野尻公平社長はこう話す。外食業界は寡占化が進んでいなかったが、再編によって巨大企業が生まれ、影響力を持つと予想する。

 そして自社の経営についても、コロナ禍の今だからこそ、19.1%出資している大戸屋ホールディングスの子会社化を急ぎたいという。窮地に陥ったフランチャイズ店が閉鎖し始めており、今後も続くとブランド価値が落ちると懸念する。早く傘下に入れ、支援していきたいという。

 まずは大戸屋の経営陣刷新を狙っており、同社の6月25日の株主総会に株主提案を出している。委任状の争奪戦が繰り広げられそうだ。

 外食で考えられる動きは他にもある。焦点となる企業の一つがペッパーフードサービスだ。厚い肉を安く提供する「いきなり!ステーキ」で勢力を伸ばしたが、現在は行方が混沌としている。

 2019年12月期の最終損益はこの「いきなり!ステーキ」事業の大苦戦により、27億円の赤字となった。赤字は2年連続だ。自己資本比率が2%にまで低下し、有価証券報告書に「継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン)」まで記載された。そこにコロナが重なり、追い詰められた。

 20年6月1日、ペッパーフードは2つの動きに出た。まず、仕入れ先であるエスフーズの村上真之助社長から20億円を借り入れると発表した。仕入れ先、しかも個人から借りる異例の展開について、株式市場の関係者は「金融機関はもう貸してくれなかったのか」と話す。この資金の返済期限は7月末となっており、まさに自転車操業だ。

 さらに同日、主力業態のペッパーランチ事業を分社化した。国内には5月末で約170店あり、外食関係者の間では事業売却への布石とみられている。コンサルティング会社、タナベ経営で外食業界を担当する原泰彦本部長代理は「ペッパーの時価総額が落ちている今、会社ごと買収される可能性もある」と語る。だとすると、ペッパーランチもしくはペッパーフードサービスに触手を伸ばすのはどんな企業だろうか。

 「日本ハムのような食肉大手が買い手になり得る」と予想するのは、あるコンサルタントだ。メーカーにとっては傘下に店舗があれば商品を安定してさばけるルートができる。これまでは市場に肉ブームの追い風が吹いていた。

 食肉企業では首位の日本ハムを追う2位の伊藤ハム米久ホールディングスもある。16年に経営統合して誕生した際は中期経営計画で売上高1兆円を掲げた。20年3月期は約8525億円だ。

 外食の再編事例をひもとくと、伊藤園がタリーズコーヒージャパン、ハウス食品がカレーの壱番屋と、食品メーカーが傘下に収めるケースがある。川上から川下まで事業を広げるチャンスとみる企業が増えてもおかしくない。

酒類の販売ルートを強化

 「東京五輪・パラリンピックを当て込んで都心に出店したが、新型コロナですべて水泡に帰した。不安しかない」

 東京都内に出店した居酒屋チェーンの経営者が嘆く。多くの企業が、自治体の要請で休業・時短営業に追い込まれ、4月の売上高は前年の同じ時期より9割以上減っている。

 都心部では、独自色を出せる個人経営と体力のある大手への二極化が進み、中堅チェーンが厳しくなるとの見方は多い。「金の蔵」「東方見聞録」など約100店舗(19年末)を営む三光マーケティングフーズは、20年6月期に4期連続の最終赤字となる可能性が高い。

 こうした企業の買い手候補として、ある業界アナリストは「居酒屋を傘下に持つ酒類販売大手、やまやが考えられる」と話す。同社は13年に「はなの舞」などのチムニーを傘下に収め、18年には「つぼ八」を買収した。

 やまやにしてみれば、主力である家庭用に加えて業務用の販売ルートを強化できる。居酒屋事業としては、食材の共同仕入れなどによるコスト削減の効果が期待できそうだ。

日経ビジネス2020年6月15日号 30~37ページより