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起業家支援のエコシステムを約15年間かけて整え、今では日本一のベンチャー輩出校だ。官庁や大企業に幹部候補を送り出してきた東大のイメージとは異なる動きが加速している。新型コロナ危機による低迷を打破する起爆剤となれるか。これから真価が問われる。

東大・松尾豊教授(前列中央)と研究室のメンバー。松尾研では「起業ラッシュ」が続いている

 東京・文京に形成されたベンチャー企業の集積地「本郷バレー」が拡大を続けている。その中心に本郷キャンパスを構える東大は起業家と研究成果を供給し、拡大の原動力となってきた。

 最も多くの起業家を輩出してきたのは、安田講堂に隣接する研究棟に入居する松尾研究室かもしれない。研究室を主宰する松尾豊教授は、「ベンチャー企業が活躍しないと、日本経済は成長しない」と断言する。

 松尾氏はAI(人工知能)研究の第一人者として知られ、研究室の学生たちに起業を勧めてきた。過去3年間だけでもエーシーズ、aiQ、イライザ、ビスタット、OLLOなどのAI関連ベンチャーが生まれ、「起業ラッシュ」が続く。松尾氏は「研究室内には『企業に就職したくない』という雰囲気がある」と言う。それは官庁や大企業に幹部候補を供給してきたかつての東大の姿とは異なる。

ベンチャーがコロナ後の主役に

東大は日本一の起業家輩出校
●大学発ベンチャーが多いトップ10校
注:経済産業省が調査した2019年9月時点の企業数
(背景写真=Yuichiro Chino/Getty Images)

 近年、松尾研をはじめとして起業する東大の在学生や卒業生、研究者が増えている。経済産業省が2019年9月に実施した調査によると、日本には2566社の大学発ベンチャーが存在し、うち東大発ベンチャーは268社と、日本一の数を誇る。次いで多い京都大発ベンチャー191社を引き離す。

 「『アフター・コロナ』の経済を立て直すのはベンチャー企業だ」と語るのは東大教授の各務茂夫氏である。東大で産学連携と起業家支援を担う産学協創推進本部の副本部長を務めている。04年の本部設立以来、起業家を輩出するための教育プログラムやインキュベーション施設、ベンチャーキャピタル(VC)などからなるエコシステム(生態系)を整えてきた。

きめ細かい支援体制でベンチャー育成
●起業家を創出する東大のエコシステム
ベンチャー育成のエコシステム整備に尽力してきた東京大学教授の各務茂夫氏

 各務氏は「かつて東大といえば法学部を中心に中央官庁へ官僚を、工学部を中心に大企業へ技術者を供給する役割を担ってきた。だが最近では新入生にアンケートをすると、1割程度が起業家を志向している。東大の役割は変わってきている」と話す。

 長期化する低成長時代に終止符を打つのは新規ビジネスの創出に挑む若き起業家たちだろう。コロナ危機で大きく落ち込んだ日本経済の成長エンジンとして期待がかかる。

日経ビジネス2020年6月8日号 34~37ページより