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単一の事業に集中するスタートアップに市場消滅の危機が襲いかかる。フットワークこそが真骨頂。事業の転換や選別を急ぎ、新しい事業にも乗り出す。創業の信念を貫くために爪に火をともして耐えるスタートアップもある。

素材スタートアップのTBMはコロナ関連のマスクやマスクカバーを矢継ぎ早に発表

 植物由来のプラスチックでできた洗える抗菌マスク「Bio Face」。素材系スタートアップTBM(東京・中央)が4月27日に発表して以来、既に国内外300社超から商談が舞い込んでいる。約30回の洗濯が可能で、石油由来の使い捨て不織布マスクに比べて環境負荷も低い。

 石灰石などを原料とするプラスチック代替材料「LIMEX(ライメックス)」を開発するTBMは、企業価値が10億ドル(約1100億円)を超える「ユニコーン」とされる1社だ。世界的な環境意識の高まりを追い風に事業を広げるはずだったが、新型コロナウイルスの感染拡大で急ブレーキがかかった。商談や工場建設は物理的にストップ。計画に対する影響は甚大だった。

 山﨑敦義CEO(最高経営責任者)はコロナショックの後を考えた。環境負荷を下げようというトレンドは欧州や米西海岸を中心に、世界全体で続くはず。「落ち着いてくれば、石油由来のプラスチックを原材料とする現在の使い捨てマスクは使われなくなるのではないか」

 2月末に自身直轄の部隊を設けて指揮を執った。2018年に子会社化したBioworks(バイオワークス、京都府精華町)が手掛ける植物由来のプラスチックと、協業先の島精機製作所の技術を基に、石油由来のプラスチックを使わないマスクを開発した。開発期間はわずか2カ月。さらに4月には、LIMEXを活用した抗菌加工のマスクケースも発表。「マスクとケースで、月に数億円規模の売り上げが見込める」と山﨑CEOの鼻息は荒い。

資金が底を突く恐れも

 新型コロナの感染拡大がスタートアップに与える影響は、PART1で見たような資金調達や新規株式公開(IPO)などへのブレーキだけではない。外出自粛や店舗休業などにより、本業そのものに甚大な影響が出ているスタートアップも少なくない。

 大企業と違って、スタートアップは単一の事業に集中して成長スピードを重視することが多い。製品の開発や宣伝への投資を先行させるこれまでの経営モデルのままでは、売り上げ回復が見込めないスタートアップは資金がショートし、早晩倒れることになるだろう。

 しかし、「転んでもただでは起きない」というしぶとさを持つスタートアップが新型コロナの余波で台頭してきた。ある企業は事業を思い切って選別し、別の企業は新しいアイデアを即座に形にする。「新しい生活様式」への対応にチャンスを見いだした企業もある。

 「2月上旬から変調した」。こう語るのは、チケット販売やマッチング機能などイベント運営の支援サービスを提供するEventHub(イベントハブ、東京・新宿)の山本理恵代表だ。「飲食や宿泊の自粛より前に、イベントの自粛が始まった」(山本代表)。セミナーや展示会といったビジネス系のイベントが軒並み中止となり、契約がほぼゼロになった。

小規模企業から利用が広がった。名刺交換などの機能追加を計画

「最悪の想定」で方向転換

 社内会議では当時の世間の雰囲気と同様、「1~2カ月で元に戻る」という楽観論も出たが、山本代表は「無症状が多いウイルスは長引くかもしれない。1年はリアルイベントが開催できないという最悪の想定で動く」と決断。オンラインイベントの運営を支援するサービスの開発に着手した。

 既存サービスには利用者がいない。ならばと思い切って社内の人材をオンラインイベント版の開発に集中させ、2月末には無償の試作版の公開にこぎ着けた。緊急事態宣言が出た4月以降にはイベント開催を様子見していた大企業がオンラインへの移行を決断し始めた影響で問い合わせ件数が急増。4月下旬にはリアルイベント版の売り上げ減を補うべく、有償の正式版の販売を始めた。