多くの企業は制度続行を宣言

 結論から言えば、こうした「給与増加企業」の中で、現時点で新たに導入した制度の見直しなどを表明している企業はほとんどない。

 13~14年にかけてグローバルで人事制度の共通化に取り組んだ日立製作所。全世界の管理職5万ポジションをランク付けし、各ポストの役割と貢献度で報酬が決まる仕組みに変え、若くして抜てきされ高給を手にする社員も増えた。その日立は、同制度を見直すどころか、今後は管理職のみならず、一般社員も対象にする計画だ。

 NECや富士通も、ITデジタル人材が不足する中で「将来の成長に向けた人への投資を続けていく」と口をそろえ、メルカリで人事を統括する木下達夫・チーフヒューマンリソースオフィサーも「譲渡制限株式ユニットをやめることなどは今は考えていない」と強調する。

 だがそうはいっても今回の“敵”は、世界中の企業を混乱に陥れているコロナだ。日立のような巨大企業はまだしも、すべての「給与増加企業」がその影響を受け流せそうにはない。

 例えば、一部の優秀な社員の処遇だけを手厚くするならともかく、より多くの従業員の所得を底上げするには、原資が必要だ。その原資を確保する方法は主に2つある。

①事業拡大で売り上げや利益を伸ばす
②内部留保などを取り崩す

 このうち①の戦略には、コロナ禍によるかつてない経済低迷・市場縮小が障害となる。ゴールドマン・サックス証券の見通しによると、日本の20年4~6月期の実質国内総生産(GDP、前期比年率)は従来予測のマイナス7%から、マイナス25%に下方修正された。データを遡れる1955年以降で最大の落ち込みだ。現在の状態が半年も続けば、日本の産業全体で40兆円以上の市場が消えるとの試算もある。

 さらに②。「内部留保を取り崩せば従業員の給料を増やせるという主張があるが、そう簡単な話ではない。利益剰余金は必ずしも現金でストックされているわけではないし、あくまで株主に帰属する」。こう指摘するのは公認会計士・税理士の柴山政行氏。今後、コロナ禍で経済環境が悪化すれば、株主の投資効率の基準はよりシビアになる。そうなれば「無理をした処遇改善は、コロナ後は不可能になる」(柴山氏)。

 人材確保や景気持続を見据え、大企業が進めてきた「給与増加計画」。コロナ・ショックによって、そこに暗雲が垂れ込め始めていることに疑いはない。

 ここで重要なのは、柴山氏をはじめとする多くの専門家が、こうした「給与増加計画」のつまずきは、これから始まる給与削減パニックのほんの始まりにすぎないと考えていることだ。

 各シンクタンクは、今夏の1人当たりボーナス支給額の大幅な落ち込みを予想する。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが前年比7.6%減、日本総合研究所が同6.4%減、第一生命経済研究所は同4.0%減と見込む。

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