しかし今後、そんな流れにコロナが水を差すのは容易に想像できる。休業が1カ月続けば、売り上げが数百億円減るとされるTDR。コロナ禍で処遇改善の試みが止まったとしても誰も責められない。
「今の“夢の国”は、質の高い非正規労働者で成り立っている。何とかコロナを乗り越え、待遇が上がる流れを維持しないと辞める人が続出しかねない。今は一日も早い終息を祈るだけ」。組合担当者はこう声を詰まらせる。
世界中で猛威をふるい続けるコロナ・ショック。中小企業の従業員や個人事業主、フリーランスでは既に、住宅ローン破産や家賃を払えず廃業を余儀なくされるなど厳しい状況に陥っている人がいるが、その波は早晩、大企業にも押し寄せる。様々な打撃が懸念される中で、まずその影響が顕在化しておかしくないのが、オリエンタルランドに限らず少なからぬ大企業が進めてきた「社員の所得増加計画」だ。
経済協力開発機構(OECD)などの国際比較で見て、比較可能な35カ国中18位とふるわない日本の給与水準(17年時点)。こうした状況を覆し、グローバルな人材獲得競争にも打ち勝つため、多くの企業がここ数年、魅力的な給与制度づくりに力を入れてきた。背景には、給与増をデフレ脱却の起爆剤にしたい安倍政権への呼応もある。
代表的なのはファーストリテイリング。20年春入社の新入社員の初任給を2割引き上げた。「新卒でも年収1000万円以上」と19年に打ち出したのはNEC。枯渇するIT人材を確保する目的で、学生時代に論文発表などの実績があれば優遇することにしたという。富士通も今年の春闘で大卒初任給1万2500円アップと、電機大手の平均3000円上げを大きく上回る金額を提示し、話題を呼んだ。
IT系で目立つのは、株式の付与によって社員の所得を増やす動きだ。LINEは19年2月、成績上位の社員に新株を付与し、報酬を上乗せする制度を導入。メルカリも18年末、正社員を対象に、自社株を使って成果分の報酬を支払う「譲渡制限株式ユニット」と呼ばれる仕組みを取り入れた。
若手や成績優秀者など一部社員の報酬を増やした企業がある一方で、シニア社員の処遇改善に乗り出した会社もある。日本ガイシはその一つで、定年を延長したうえで、給与も大きく減らさず、60歳の時の給与水準を維持できるよう人事・賃金制度を改定。東証1部上場の岐阜県の電設資材メーカー、未来工業も、同様の仕組みを導入した。
住宅ローン破産どころじゃない
自営業・フリーランスの崖っぷち
「5〜6月の予定は真っ白。貯金を切り崩して生活していくが、いつまでもつのだろうか」。札幌市在住の男性カメラマンは不安げな表情を浮かべる。現場の仕事は3月こそ3割減ほどだったが、4月から加速度的に減少。7月以降の収入は全くめどが立っていない。
講師やインストラクター、アーティスト、ダンサー。そんな従来からの職種に、ユーチューバーやブロガーなどネット系を加えた広義のフリーランスの数は400万〜500万人にもなるといわれる。高度な技術を持ち、発注元と価格交渉をできる人もいる一方で、仕事をもらうため、言いなりにならざるを得ない経済的な弱者も多い。
まだ国内の全就労者の1割以下とはいえ、近年は増加しており、「自立した働き方」の支援を目指す国も、不安定な労働環境の改善を始めている。プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の平田麻莉代表理事は「まず書面で発注内容を明示するなど契約ルールを明確化すること。どれくらいが実際に稼働しているのか、実態を捕捉する必要もある」と話す。
そんな途上にある働き方に襲いかかったコロナの波。週12本のレッスンがすべて中止になったというフィットネストレーナーの女性は「月40万円の収入があっという間に5万円になった」と話す。
今回、フリーランス協会の働きかけもあり、国は「持続化給付金」の対象にフリーランスも入れた。当面は息をつなぐ人も増えそうだが、労働法に詳しい神戸大学の大内伸哉教授は「新たな働き方の受け皿として、安心して働ける環境の整備を一刻も早く進めるべきだ」と指摘する。
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