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未曽有の雇用クライシスに企業はどのように立ち向かえばよいのか。グローバル化や働き方改革などで、リーマン・ショック時とは雇用環境が変わっている。新しい発想や施策で、雇用の維持に挑む企業の姿を見てみよう。

「雇用の維持こそ社会への貢献」
日本電産の永守重信会長は、志を同じくする社員については「何があっても雇用の維持に努めるつもりだ」と語る(写真=菅野 勝男)

 新型コロナウイルスの感染拡大によって凍り付く経済。忍び寄る雇用クライシスに企業はどのように備えたらいいのか。創業から何度も危機に直面しながら、「雇用を守る」ことを実践してきた日本電産の永守重信会長CEO(最高経営責任者)は、「雇用を守る」と強調しながらも、「これまでの考え方を少し変え始めている」と打ち明ける。

 私は創業以来、雇用を維持することを常に重視してきた。雇用の維持こそ社会への貢献だと思っている。リーマン・ショックのときも、私は「皆で危機に耐えてもっと強くなろう」と話した。社員の賃金は5%減、役員は報酬を半分カットし、自分はゼロにした。雇用を守るために痛みを皆で分かち合った。

 危機を乗り切るための緊急措置を施す一方で、危機後を見据えて徹底したコスト改革に乗り出した。売上高が半分になっても同じ利益が出る「WPR(ダブル・プロフィット・レシオ)」という運動だ。間接部門か現場かを問わず、世界の社員からアイデアを出してもらい、どんどん実行した。集まったアイデアは約30万点にも達した。

 その成果で、2009年1~3月期の売上高はピーク時から半減したものの、電子部品業界では巨額の営業赤字が続出する中で日本電産は10億円の営業黒字を計上できた。そして賃金カットはその夏以降、順次解除し、カットした分は業績が戻ったら1%の金利を乗せて臨時ボーナスとして社員に“返済”した。営業利益は翌期(10年3月期)には、リーマン・ショック前の08年3月期を超えた。

雇用維持は日本企業の強さ

 なぜ雇用を重視してきたのか。創業後の苦しい時期、採用できた人材は一流大学出身というわけではない人たちばかりだった。それでも、皆一生懸命働いて会社を成長させてくれた。だから私は「財産をなげうってでも雇用は守る」と言ってきた。それが日本企業の強さだと思っているからだ。

 今回の新型コロナ感染拡大による不況に対しても、日本電産としてはまず、コスト削減や効率化などを不断に進める。ただ、リーマン・ショックから10年余りたって、日本企業のありようも変わってきた。そのため雇用についての考え方は、今はやや変え始めている。

 グローバル化も進み、社員は会社と一体になるというより、自分の生活や考え方を重視する人も増えている。これは仕方がない。こちらから辞めてもらうことはもちろんしないが、そういう人が自身の道を目指すことは止めない。転身支援制度などを設けている。他方、同じ考え方でやっていこうという人についてはこれからも何があっても雇用の維持に努めるつもりだ。

 グローバル化や人手不足が加速し、日本企業の多くが働き方改革などを実践してきたことで、過去10年で雇用を取り巻く状況は大きく変わった。そうした中で起きた「コロナ・ショック」。「雇用を守る」重要性は変わらないが、新たな施策も必要だ。

 そこで大切なのが、永守氏も語ったように危機が去った「アフター・コロナ」の世界を見据えた体制作りである。まずは、新型コロナ感染拡大の“渦中”にいる企業の取り組みから見てみよう。

日経ビジネス2020年4月27日号 30~35ページより