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乾坤一擲(けんこんいってき)の携帯電話事業が当初予定から半年遅れで始動した。低料金でシェアを広げる作戦だが、インフラは手探りで「まだ試験サービス」との声も。消費者が期待する携帯値下げの旗手になれるのか。

(写真=左上:ZUMA Press/アフロ、右上:読売新聞/アフロ)

 「『Rakuten UN-LIMIT(楽天アンリミット)』を2.0へとバージョンアップする」

 楽天モバイルが携帯電話の商用サービスを開始した4月8日朝。同社の三木谷浩史会長兼CEO(最高経営責任者)はツイッター上でこう宣言すると、3月に発表した料金プランを早くも改定すると明らかにした。同社の通信回線以外では月間2ギガバイトしか高速通信できないという制約を緩め、5ギガバイトに引き上げたのが主な内容だ。

 サービス開始当日に料金プランの内容を変更するという異例の措置。背景にあるのは消費者に広がった楽天モバイルに対する「落胆」だ。

シェア獲得か、収益化か

 同社が自社回線を展開するのは当初、東京23区と大阪府、愛知、神奈川など都市圏の一部だけ。その他の地域やビル、地下街などではKDDIの回線を借りる「ローミング」と呼ばれる方式でカバーする。高速データ通信が「使い放題」のサービスを全国で提供としながら、多くのエリアで2ギガバイトしか使えないのが弱点だった。

 今回それを改善した形だが、後発の楽天モバイルにとってはもろ刃の剣だ。KDDIにはローミング費用として1ギガバイト当たり約500円支払う取り決めになっている。

 利用者が楽天回線のエリア外で5ギガバイトを使い切ると、1ユーザー当たり最大月2500円をKDDIに払うことになる。NTTドコモやKDDI、ソフトバンクの大手3社を追撃するには契約獲得が急務だが、自社エリア以外の利用者が増えすぎると費用は膨らみ、携帯事業の収益化が遠のいてしまう。

 それでもサービスの弱点潰しを急いだ楽天モバイル。もとより2025年までに6000億円近くの資金を投じて通信インフラを完備する計画で、親会社の楽天にとっても負担は大きい。

 楽天の19年12月期連結決算では、営業利益(国際会計基準)が前の期に比べ57%減って727億円となった。携帯事業への先行投資がさっそく重荷となった格好だ。自己資本比率は15年12月末時点の15.5%から19年12月末時点では8.0%に悪化している。

 しかも楽天モバイルには、従来の参入企業にはなかった制約も通信業界の監督官庁である総務省から課せられている。「経営不振などで経営事業を売却する場合、割り当てを受けた電波は返上しなければならない」というものだ。

 以前なら、携帯業界から撤退する際に価値の高い電波を含めて事業を売却でき、一定の投資回収ができる可能性はあった。だが、楽天モバイルはその手法が使えず、もし事業が失敗に終われば巨額の損失が見込まれる。まさに退路を断った状態での参入だ。

 そんな楽天モバイルに対し、以前なら「何をしてくるか分からない」(NTTドコモの吉澤和弘社長)と警戒感を隠さなかった携帯大手各社は今、意外なほど冷静だ。新型コロナウイルスの影響もあり消費者の“乗り換えムード”が低調なこともあるが、ある通信大手幹部はこう話す。「楽天モバイルは19年10月に始めた無料の試験サービスを1年延長したようなものだ。焦って手の内をさらす必要はない」

日経ビジネス2020年4月20日号 28~31ページより