新型コロナウイルスの脅威で外食やサービス業界は苦境にあえいでいる。外出自粛は人々に本当に必要なもの、欲しいものの厳選を促した。消費の新秩序に対応できるかが、「自粛後」の優劣につながるだろう。

3月12日、東京・日本橋に日本初となる本格的なノンアルコール・低アルコール飲料専門バー「Low-Non-Bar」がオープンした。17日夕に来店したのはリクルートグループに入社して2年目の宿本楽さん。甘酒でも顔が真っ赤になる体質で、バーは人生で2回目だったが憧れはあった。「居酒屋だとジンジャーエールばかりだが、ここなら色々楽しめそう」と興味を持ったという。
バーといえば酒をたしなむ大人の社交場のイメージが強い。老舗店はノンアルコールの注文を拒否することも少なくなく、高級酒が出なければ売り上げは厳しくなる。それでも、運営会社オーチャードナイト(東京・千代田)の宮澤英治社長は、「バーテンダーや隣のお客さんと会話を楽しめるのがバー。お酒を飲まないといけないというのは違うと思った」と話す。
新型コロナの流行で、今最も苦境にあえいでいる業界の一つが外食だ。各地の外出自粛要請もあり、特に小規模の飲食店は廃業や閉店を回避できるか、ギリギリの戦いを強いられている。
東京都の自粛要請の前とはいえ、新型コロナの影響が出始めた時期に開業したノンアル・低アルコール専門バーに勝算はあるのか。まず、目の前の危機を脱することが不可欠だが、その先に芽吹く新秩序が追い風になり得る。
「飲み会スルー」に共感
新型コロナの感染拡大により、接待や会社の同僚との飲み会は大きく減った。この先、在宅での勤務が当たり前になっていくとすれば、意味のある接待はともかく、「付き合いで酒の席に行く必要はあるのか」と考える人は増えそうだ。酒を飲めない人や酒に弱い人であればなおさらだろう。
予兆は新型コロナの流行前からあった。2019年末、インターネットで駆け巡った「忘年会スルー」。20~30代の男女の半分以上に飲酒の習慣がない時代、「自腹で飲みたくない酒を飲み、しかも上司の説教を聞かされる」と忘年会の意義を問う声が上がった。
「せっかく人と会うなら、下戸も楽しめる場所を選ぶべき」。そんな考えから生まれたのがノンアル専門バーだ。こうした動きは着実に広がっている。
東京・代々木上原のレストラン「sio」のソムリエ亀井崇広氏は、お茶などをベースにしたノンアルカクテルをコース料理10皿に合わせて6~7種類、提供している。料理の味を引き立てる「ペアリング」を意識してカクテル開発に力を入れており、「料理を楽しんでもらうのがレストランの役目。ワインを出すだけのソムリエは古い」と言い切る。
ノンアルビール市場をいち早く開拓してきたキリンホールディングスも、外食店に「お肉に合う」「インスタ映え」「健康志向」などのキーワード別にノンアルメニューを提案している。
米国や英国でも「禁酒」の動きは広まっている。「飲み会」といえばアルコールという慣習の見直しは、新型コロナによってさらに加速しそうだ。
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