当たり前だった風景は、新型コロナウイルスの感染拡大でことごとく消えた。未知の感染症との戦いは、既存の秩序や方法論の見直しを否応なく迫る。眼前の脅威が収まった後、これまでとは異なる社会が広がっている。

 Aさんが電極で挟んだ特殊なゴムを人差し指と親指に巻き付け、その手で風船を持つ。他方、離れた場所にいるBさんはセンサーを指に巻き付けて、水風船を持ち縦、横、斜めに振ってみる。すると、Bさんが持っている水風船の感触が、空っぽの風船に触れているAさんの指に再現される──。

 これは、豊田合成が開発した「触覚伝送」技術だ。今、この技術に改めて注目が集まっている。

 触覚伝送技術は、ゴムが電圧に応じて伸縮する原理を活用している。同社は電極で挟まれたゴム「e-Rubber」を開発。センサーで感知した圧力を信号に変換し、ゴムに伝えることで、触覚を「送る」ことに成功した。

<span class="fontBold">豊田合成は触覚伝送技術(上)のほか、ゴムを使った医療関連機器を研究開発している(下)。</span>(写真=上・下:吉田 信毅)
豊田合成は触覚伝送技術(上)のほか、ゴムを使った医療関連機器を研究開発している(下)。(写真=上・下:吉田 信毅)

 豊田合成は2007年にゴムの開発を始め、15年にロボットハンドなどへの実用化に向けた技術開発に着手した。競合が使うウレタンやアクリルなどに比べて応答性に優れ、動きの再現性が高い。国際学会などで発表すると、ロボットやVR(仮想現実)といった業界から注目を浴び、国内外の複数の企業との技術開発が始まっている。

 そのうちの一つが、医療業界だ。「脈拍は、すでにかなり高い精度で再現できている」。藤原武史特機事業部eR事業開発室長はこう話す。すでに多くの医師に再現性を確認してもらっており、実用化に向けた障壁は「伝送技術の検討と規制くらい」(藤原氏)という段階まで来ている。豊田合成は年内にも伝送技術の実証を始めようとしている。

進まなかったオンライン診療

 18年に保険適用となったオンライン診療。だが、ほとんど普及していないのが実情だ。月1億件ほどある診療報酬請求の中で、オンライン診療は全体の100万分の1ほどしかない。対面診療の方が診療報酬が高く、医師側にインセンティブが働きにくいからだ。

 だが、新型コロナの感染拡大で、その潮目が変わりつつある。「感染リスクを恐れる患者らが、診療をオンラインでできないか調べて問い合わせるケースが増えてきた」。オンライン診療アプリを手掛けるメドレー(東京・港)の田中大介執行役員はこう話す。2月、同社のアプリに新規登録した患者のアカウントの増加率は、1月の8倍に上った。

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