全4718文字

社内の種を育てる力を十分に持ったうえで、外部の知恵を活用する。そうすれば停滞するオープンイノベーションも軌道に乗る可能性が大きい。全ては、知的財産戦略の重要性を経営トップが理解するところから始まる。

オープン・クローズ戦略で主導権を握る
●ファクトリーオートメーションでの三菱電機の基本戦略
オープンネットワークを管理する協会を通じ、同業の他社に対して開発に必要な基礎技術を公開。ネットワークに参加するパートナーを獲得する。一方、高付加価値の技術は特許で権利化。そのうち、コアとなる制御の「肝」はブラックボックス化し、優位性を守る。(写真=三菱電機提供)

 「これまでの活動を継承し、積極的な知的財産活動をグローバルに展開していく」。三菱電機の杉山武史社長はこう話す。1998年に社長に就任した谷口一郎氏以降、4年任期で引き継ぐのが三菱電機の伝統で、歴代社長はいずれも知財重視の方針を掲げてきた。半導体技術の特許を巡り、米国でライセンス料の支払いに追い込まれた90年代の苦い経験を今も経営陣は忘れていない。

 知的財産という革新の種を社内に蓄積することこそ、成長の原動力になる。そんなトップの考え方が表れているのが、同社の知財部のあり方だ。

 組織は社長直轄で、国内外で知財に携わる社員は400人以上。2018年度の特許の国内出願件数は1位だった。

 ただし同社は、知財を軸に社内の種を生み育てることに積極的な一方で、外部の知恵を活用することにも力を入れている。

 「自社の知財を分析し、オープンにする技術とクローズにする技術を明確にしている」。知的財産センターの諏訪裕治センター長はこう話す。他社への技術提供による標準化、特許権利化による囲い込み、コア技術のブラックボックス化という3つの戦略を巧みに組み合わせている。

 その代表例が産業用機械のオープンネットワークだ。顧客の工場の生産工程を自動化するファクトリーオートメーション(FA)では、同一ライン上で稼働する複数の機械を連動させなくてはいけない。メーカーの異なる外部機器間の交信が自動制御の鍵となる。

 FA機器をつなぐ、統一的なネットワークを整備し、各メーカーの連動をスムーズにしよう──。こうした思いから自社が既に開発していた産業ネットワークの技術を第三者による協会に提供。00年に誕生した日本初の産業オープンネットワーク整備に一役買った。

 参加企業を増やすため、製品開発に必要な自社のインターフェース技術も開放した。制御部の情報のチップを各社に配るなど、黎明期は身を粉にしてネットワーク拡大に努めたという。

 今では、NECや米シスコシステムズなどパートナー企業は国内外合わせて3800社を超える。オープンネットワークのシステム自体は、他社を含めた業界全体の技術を取り込みながら、FA業界の核としてバージョンアップを続けている。

 一方、同社が強みとする技術は自社で囲い込み、優位性を守りながらシェアを広げてきた。それが「PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)」。生産ライン上で稼働する接続機器を自動制御する製品で、FAの頭脳にあたる。 顧客の工場の生産効率を引き上げるPLCの精度やスピードは付加価値の源泉だ。このため制御技術のアルゴリズムやハードの構造は特許で権利化している。ソースコードやチップの回路など、制御の中核となる「秘伝のタレ」の部分は特許申請さえせず、自社でブラックボックスにしている。

 自社技術を先んじて開放することでオープンネットワークを広げ、市場のパイを増やすことに成功した。一方、基幹部品のPLCは、クローズ戦略で製品の付加価値をしっかり守り抜き、国内シェアは5割を超えるところまできた。

 やみくもに取り組んでもうまくいかないオープンイノベーション。しかし、社内の種を自分で育てる力を十分に持ったうえで取り組めば、確かに革新を育む強い武器となる、というわけだ。

日経ビジネス2020年4月6日号 38~41ページより