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「革新の種」は多くの企業に眠っているが、発掘することは簡単ではない。それらを見つけ、育て、製品化するには、いくつかの工夫が必要だ。専門部隊の創設から新しい形のベンチャーとの提携まで先進企業の事例を紹介する。

 ユニ・チャームが4月7日に発売する生理用ナプキン「ソフィSPORTS(スポーツ)」。運動や仕事で日常的に動き回る女性をターゲットに開発した戦略商品だ。最大の売りは激しく動いても吸収体の形状が崩れにくい点。パルプと合成繊維をムラなく混ぜ合わせる独自の技術を取り入れて実現した。

埋もれかけた技術を知財部門が「発掘」
●ユニ・チャームが「ソフィ SPORTS」を開発した流れ
4月7日に発売する「ソフィ SPORTS」。運動や仕事に動き回る女性をターゲットにしている(写真右)

 一般的にナプキンの主原料であるパルプは吸水性に優れるが、長さが2~3mmと短いため、ズレたりヨレたりしやすい。そこでパルプよりもやや長い合成繊維を「つなぎ」として混ぜ合わせた。一見すると地味な技術だが、「2種類の繊維を安定的にブレンドするのは難しい」と、グローバル開発本部の野田祐樹・第1商品開発部担当部長は言う。

 実はこの技術、新たに開発したものではなかった。もともとは別のナプキン向けに開発したものだ。2015年に一度商品化したものの、販売は不振。「便利さが消費者に伝わらなかった」(野田氏)ためだが、結果がついてこなかったため、技術も社内で顧みられることなく、放置されていた。

 ユニ・チャームがこの技術を発掘できたのは、社内の埋もれた知的財産を徹底的に発掘する部隊があるからだ。その名は、知的財産本部特許グループ。シーメンスの知財部門同様、社内で蓄積した技術や知的財産をビッグデータとしてフルに解析して社内の技術を棚卸しし、使うべきものを開発部門に進言する。「知財部門の仕事は特許出願だけではない。社内の発明を発掘すること」。グループに籍を置く江原真理子氏はこう話す。

 自社の特許や技術の強みと弱みを分析し、経営に生かす取り組みを同社が進めてきたのは10年ほど前から。知財発掘グループが棚卸しをした技術を生かせるような全社的な開発体制も整えてきた。知財担当は開発の初期段階から、マーケティングや技術の担当者の打ち合わせに加わっている。商品化までに月1回以上のペースで開発担当者との間で意見をキャッチボールしながら仕上げる流れだ。

 こうした体制自体を整備している企業は他にもある。が、往々にしてあるのが、現場の開発・生産部門に知財部門が遠慮してしまうこと。だが、開発側の野田氏は「遠慮どころか、互いにズカズカと入り込んでいくように議論し、決めるまでは健全なケンカを繰り返す」と苦笑する。

 ユニ・チャーム級の大企業となれば、膨大な社内のデータベースに商品性能を決定づける技術は少なからず存在する。ただ、現場の開発・製造部門は日々の仕事に追われ、埋もれた技術にまで目を向ける余裕がない。

 そこで「発掘部隊」の出番になる。少なくとも歴史ある企業であれば、その方が、革新の種を外で探すより、コストも時間もずっと短縮できる。

日経ビジネス2020年4月6日号 28~33ページより