15年越しの「理想」実現へ

<span class="fontBold">2016年に安川電機社長に就任した小笠原浩氏は、組織再編を進めたうえで、データの一元化などのシステム統合を進めた</span>(写真=飯山 翔三)
2016年に安川電機社長に就任した小笠原浩氏は、組織再編を進めたうえで、データの一元化などのシステム統合を進めた(写真=飯山 翔三)

 同じ規則に基づく「コード」で一元管理して、社内に埋もれるデータの見える化を図り、適切な経営判断を下せるようにする。それがYDXの狙いだ。

 小笠原社長にとってコードの一元化は悲願だ。約15年前に専門の組織を立ち上げ、一元化を推進する必要性を社内で訴えてきたが、結局、実現しなかった。16年に経営トップに就いたことでようやく「理想」に向けて動けるようになった。「これまで各工場、各事業部など“部分最適”でデジタル化を進めてきたが、今後は“全体最適”でもって会社全体の効率化を進めなければ、日本のモノづくりは、生き残れない。グローバルを含めた全社的にデジタル化を進められるのは、社長である私しかいない」と力を込める。

 もちろん、「笛吹けど踊らず」のこともあった。コードの一元化でも「今のやり方で特に困ることはない」「何で、一元化する必要があるのか」といった声が社内で噴出していた。「自分の仕事をなくすことにつながりかねない」と不安がる社員も少なくなかった。

 今まで慣れ親しんだやり方を変えることは簡単ではない。その壁を突き破るために小笠原社長が採ったアプローチは大きく分けて2つ。一つはコードを統一したデータの利便性を理解してもらうために生産、販売、技術開発の組織再編を先に進めることだ。

 18年には営業本部を新設し、ロボット、モーターなどの事業別だったのを地域別に変え、1人の営業担当者が各部の製品を全て売るような体制に変えた。営業担当者にとっては、取引先や勘定科目が同じなのに、その内容をデータベースに入力したり、データを閲覧するたびに異なるコードで処理したりするのは煩わしい。データの一元化が欠かせなくなるわけだ。

 もう一つはYDXを進めることで得られる利点を全社員で共有すること。まず、「25年度に営業利益1000億円以上」を掲げた。データを一元管理することで収益力を高める方向性を明確に位置付けたのだ。その上で、小笠原社長自らが各事業所で「ワイワイクラブ」と呼ぶ対話集会を開催し、DXが欠かせないことを説いて回った。

 その際には「分かりやすい説明を心掛けた」と小笠原社長。例えば、A工場が原価7万円で作った製品を、営業部門が10万円で仕入れ、9万円で売ったとする。営業部門だけで見ると、1万円の赤字だ。一方、B工場の9万円の原価の製品を10万円で営業が仕入れ、10万5000円で売れば、営業は5000円の黒字。一見、「黒字のB工場の製品」が稼いでいるが、製造原価ベースで見れば、A工場の製品が生み出す利益は2万円。同1万5000円のB工場の製品より多い。部門間のデータが分断されるから見えない「本当の利益」。小笠原社長はこうした具体例を示しながら「経営判断を誤らないようデータの見える化が必要」と訴えた。

 世界30カ国・地域に拠点があり、売上高の約7割を海外で稼ぐ安川電機。世界と伍(ご)して戦うには、経営の見える化は欠かせない。YDXはそれを実現させるインフラといえるだろう。