
スマホが手元にある方は、ぜひ下のQRコードで日経ビジネス電子版にアクセスし、実際の音声を聞いていただきたい。これは日本列島全域に生息する野鳥、シジュウカラの鳴き声だ。
スズメ程度の大きさで、街中でもよく見かけるシジュウカラ。詳細は後述するが、「ジャージャー」と聞こえるこの鳴き声は専門家によると蛇がいることを仲間に伝える言葉なのだという。
「そんな話は到底信じられない」と思う読者もいるかもしれない。だが、動物の“言語”に関する研究は近年、世界中で本気で進められている。北米大陸最大のアリゾナ・ソノラ砂漠に生息するげっ歯類、プレーリードッグの言語を1980年代から研究してきた、米国の北アリゾナ大学のコン・スロボチコフ名誉教授もその一人だ。
プレーリードッグには「方言」も?

同教授は、ガニソン・プレーリードッグという種類が際立って複雑な“言語体系”を持つことを発見したという。「コヨーテなど天敵の接近を音声で仲間に警告する」「その際、名前を呼び合う」「色や形を表現することもできる」といった研究成果を発表し、2000年代までにプレーリードッグの20以上の“言葉”を特定したとされる。
それにとどまらず、プレーリードッグは「形容詞を使うなど原始的な文法を持つ」とまで主張。18年にはNHKのEテレ「ダイアモンド博士の“ヒトの秘密”」に出演し、「彼らは後天的に言葉を学んでおり、方言も存在する」との見解を示した。
現在は、Zoolinguaという会社を設立。犬の行動や発声や表情などから、プログラミングなどを使い犬が伝えたいことを英語に翻訳する研究を続ける。
このほかにも、ゴリラやカラス、イルカなどのコミュニケーションの研究は世界にいくつも存在する。研究の多くが目指す最終目標は「小型の装置をベルトに下げておけば、しゃべったことを動物に通訳してくれる」(スロボチコフ名誉教授の共同研究者、ジョン・プレイザー氏)という世界。こんな考えを、単なる風変わりな研究として片づけていいのだろうか。
「人間が動物の言葉を理解するのは簡単にはいかない。けれども動物たちが音声と言う手段を通じ、従来の研究者が考えてきたよりもはるかに高度な意思疎通を図っていることは間違いないだろう」
こう話すのは、日本で動物言語の研究を続ける京都大学白眉センターの鈴木俊貴助教(動物行動学)。前出の“シジュウカラ語”の分析も、鈴木氏によるものだ。

もともと生物に関心があった鈴木氏。シジュウカラ語の研究の道に進んだきっかけは、05年、大学の卒業研究のテーマを探しているときに、シジュウカラの鳴き声がほかの鳥よりも多彩なことに気が付いたことだった。
鈴木氏は「シジュウカラは200種類ほどの鳴き声を使い分けて、仲間とコミュニケーションをとっている」と話す。前出の「ジャージャー(蛇がいる時に出す特別な声)」も、その一つだ。
語順や文法も理解している
鈴木氏の研究によれば、実際に「ジャージャー」という鳴き声を録音しスピーカーから流してみると、それを聞いたシジュウカラは、地面に蛇がはっていないか探すようなそぶりを見せる。またそのうえで、細長い棒など蛇に似たものを示してみると、シジュウカラが確認しに近づいてくることも分かった。他の音声ではこうはならない。
鈴木氏は、蛇を伝える言葉のほかにも、数種類の鳴き声について意味の特定に至っている。例えば、次の2つだ(シジュウカラの鳴き声は前出の日経ビジネス電子版で)。
「ピーツピ」という鳴き声は「警戒しろ」、「ヂヂヂヂ」は「集まれ」という意味だという。さらに言えば、鈴木氏は意味の特定だけでなく、言葉の順番にも一定のルールがあることを突き止めている。
シジュウカラは「ピーツピ」と「ヂヂヂヂ」の語順のルールを理解し、組み合わせることができる。
例えば、「ピーツピ」→「ヂヂヂヂ」という順番で音声を聞くと、たいていのシジュウカラは周囲を警戒しながら音源に近づいてくる。その一方で語順を人工的にひっくり返して「ヂヂヂヂ」→「ピーツピ」という順番で聞くと、ほぼ反応を示さないという。
「恐らくシジュウカラは文法まで持ち合わせている。初めて聞いた文章(鳴き声の組み合わせ)であっても、文法的に正しいかどうかを瞬時に判断し、言葉のつながりを理解できることが分かってきた」。鈴木氏はこう話す。
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