グローバルでの競争環境に身を置いた会社にとって日本型雇用は足かせになる。会社に生涯のキャリアを預ける時代から、個人が主体的にキャリアをつくる時代へ。意欲を持って能力を磨く覚悟を持ち続けられるかが個人の未来を左右する。
“ポスト終身雇用”の第1世代──。2020年4月に日立製作所に入社する約600人の新入社員は、後にこう呼ばれるかもしれない。
日立は今年、「入社式」を廃止し、新たに「キャリア・キックオフ・セッション」と名付けたイベントの開催を決めていた。新型コロナウイルスの感染拡大で中止を決めたが、CHRO(最高人事責任者)の中畑英信執行役専務は「自らキャリアを切り開くよう新入社員に繰り返し伝えていく」と強調する。

入社式は、主に新卒が会社に就職したことを祝うものだ。それは1つの会社で定年まで勤めあげる「就社」という言葉を想起させる。背景には、個人はキャリア形成を会社に委ね、会社は安定した生活基盤を提供するという暗黙の契約関係がある。年功序列や終身雇用といった日本型雇用モデルの根底だ。
日立の「入社式」廃止は、この関係からの決別を意味する。入社直後から、会社にぶら下がろうとする社員の意識を徹底的に排除していく考えだ。
この動きは、取締役会長の中西宏明氏が、経団連会長として昨年春から繰り返し発信している「終身雇用は限界」というメッセージとつながっている(2020年3月16日号編集長インタビュー)。日立は09年3月期に国内製造業で史上最大(当時)の7873億円もの最終赤字を計上。中西氏は、その後の日立を日本型雇用モデルから脱却させる改革の旗振り役を務めてきた。
中西氏の焦燥
「グローバルで活躍できるリーダーが足りない」
中西氏はHDD(ハードディスク駆動装置)を手掛ける日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)のCEO(最高経営責任者)在任時から、何度もこうこぼしていた。米IBMのHDD部門を統合した日米混成のグローバル企業を経営する難しさが、その言葉に集約されている。
日立は長年、電力会社などを相手にする電機メーカーとして、国内中心の事業に依拠してきた。それは何年も先まで売り上げが読めるような予定調和的なビジネスで、1年でも経験が長い人材が評価されるのが当たり前だった。
だが、デジタル化とグローバル化により年功的な雇用モデルの負の側面が顕在化。特に、自ら学びキャリアを磨く意欲に乏しい、40代後半から50代のミドル層における賃金と会社への貢献度の乖離(かいり)が広がっていた。
10年に日立本体の社長に就任した中西氏は、社会課題を解決するためのイノベーションを起こし、グローバルな成長を目指す経営にかじを切った。だが、それを担う人材をどう育てるのか。
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