大人気の調理家電「ホットクック」に、定番のチョコ菓子「ブラックサンダー」。消費者の心をつかむヒット商品の裏には知られざる失敗からの復活劇があった。

<span class="fontBold">累計販売台数が27万台の大ヒットとなるシャープの電気無水鍋「ヘルシオ ホットクック」(右)。大手の牙城を崩せずに終わった「ヘルシオ炊飯器」(左)の技術を生かした</span>(写真=今 紀之)
累計販売台数が27万台の大ヒットとなるシャープの電気無水鍋「ヘルシオ ホットクック」(右)。大手の牙城を崩せずに終わった「ヘルシオ炊飯器」(左)の技術を生かした(写真=今 紀之)

 食材と調味料を入れるだけでおいしい料理ができる。そんなうたい文句で大ヒットを飛ばす調理家電がある。シャープの「ヘルシオ ホットクック」だ。

 食材に含まれる水分を使い調理する電気無水鍋で、自動で食材をかき混ぜる機能があるため、うたい文句通り食材を入れてレシピを選ぶだけで料理ができる。食材の水分を使うので、栄養が食材に残りやすい利点もあり、健康志向の主婦らから絶大な支持を得た。

年間10万台の大ヒットへ
●ヘルシオ ホットクックの販売台数推移
<span class="fontSizeM textColRed">年間10万台の大ヒットへ</span><br /><span class="fontSizeS">●ヘルシオ ホットクックの販売台数推移</span>
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 2015年11月の発売以来、レシピの拡充や小型品の投入などで徐々にファンを拡大。販売台数は年々増加し、20年3月期は10万台の大台を突破する見通しだ。同社の調理家電の代名詞である「(蒸気で加熱するオーブンの)『ヘルシオ』の初年度販売実績に迫る勢い」と奥田哲也事業部長は笑顔を見せる。

 シャープの調理家電で最大規模のヒットとなるホットクック。だが、その誕生の裏に、ある失敗があったことはあまり知られていない。

 「ヘルシオ炊飯器」。ホットクックと同様のかき混ぜる機能を搭載した高級炊飯器だ。洗米と炊飯の際に自動でかき混ぜてくれるのが特徴で、洗米時は栄養が過剰に失われるのを防ぎ、炊飯時は鍋内部の温度を均一に保つことでうまみ成分が増えるのが売りだった。

 シャープ初の高級炊飯器として12 年に投入し、「ある程度は売れた」(奥田氏)。だが、同ジャンルはライバルがひしめくだけに「大手の牙城は崩せなかった」。14年の2号機以降、高級価格帯に新商品は投下されなかった。

炊飯器のかき混ぜ機能を転用

 しかし、転んでもただでは起きなかった。13年に新たな調理家電の企画が立ち上がると、ヘルシオ炊飯器の調理機能が話題に上り、かき混ぜ機能を持つ調理鍋の開発が始まった。 当時は「無水調理」がブームの兆しを見せていたことから、コンセプトはかき混ぜ機能を備えた電気無水鍋で固まった。

 ここで壁にぶつかる。シャープの仲村紘太技師は「ベースとなる技術は同じだが、いざ作ってみると課題だらけだった」と振り返る。炊飯器は水を入れるので、単にかき混ぜるだけでよかった。だが無水調理ではそのまま混ぜると、食材がボロボロに崩れた。

 そこで開発陣は部品はそのままに、かき混ぜ方を抜本的に見直した。センサーで食材の硬さなどを測定しながら混ぜ方を細かく制御。「肉じゃがでは100回以上混ぜ方を試行錯誤した」と仲村氏は話す。ヒーターは炊飯器より低温の部品に見直し、蒸気が食材に戻るように蓋の内部構造も変えた。

 ホットクックの累計販売台数は、今期末に約27万台の見通し。奥田氏は「一家に1台の生活必需品にしたい」と意気込む。令和時代の「3種の神器」になり得るヒット商品は、炊飯器の苦い経験がなければ生まれなかった。

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