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自動車王国・米国で地殻変動が起こっている。「次のテスラ」を狙う新興EVメーカーにヒト・モノ・カネが集まり、量産に動き出す。アマゾン・ドット・コムなども巻き込んだ新サプライチェーンは地域の在り方をも変え始めた。

シリコンバレーにあるルーシッド・モーターズ本社の試作車工場。最終組み立て工程(写真)のほか、バッテリーやモーターの工程もある
2019年4月に本社をより広い場所に移転した

 米フェイスブックが本拠地を置くカリフォルニア州メンロパークからサンフランシスコ湾を渡ってすぐ。米テスラの主力製造拠点、フリーモント工場にも近いニューアークに、ルーシッド・モーターズ(Lucid Motors)の本社はある。

 米国では今、EV(電気自動車)で「ポスト・テスラ」の座を狙う動きが活発になっている。ルーシッドはその有力候補として名前が挙がる一社だ。

 2007年にEV向けバッテリー技術開発の会社として設立された同社は16年、「EVの完成車を生産する」と宣言し、業界をざわつかせた。

CEOはテスラ「モデルS」を開発

 それから4年。ルーシッドは高級EVセダン「ルーシッド・エア」の量産タイプを20年4月のニューヨーク国際自動車ショーで初披露し、年内に出荷を始める予定だ。価格は10万ドル(約1100万円)になる見込み。ルーシッドCEO(最高経営責任者)のピーター・ローリンソン氏は「テスラとは競合しない。モデルSよりもラグジュアリーなクラスを狙う」と笑みを浮かべる。

 ローリンソン氏は英ジャガーのチーフエンジニアなどを経て09年、テスラのイーロン・マスクCEOの熱烈アプローチを受けて「モデルS」のチーフエンジニアとして引き抜かれた人物だ。ルーシッドには13年にCTO(最高技術責任者)として転籍した。

 その自信は試作車からも伝わってくる。ホイールベースは独BMWの「7シリーズ」とほぼ同じながら、後部座席の背もたれを55度近くにまで倒せるほど居住スペースが広い。

ラグジュアリーな内装にこだわる。車内での操作は基本的に「声」

 戦闘機のコックピットのように運転手の頭の上まで覆うフロントガラスは自家用車としては最大。クルマとのコミュニケーションはほとんど「声」になる見込みで、クルマが覚えた持ち主の指示に従って各種機器を操る。

 ルーシッドは19年4月にサウジアラビアの政府系ファンドから10億ドル超を調達。同年12月に着工したばかりのアリゾナ州の量産工場を「今年9月には稼働させる」(ローリンソン氏)と鼻息が荒い。

 その実力やいかに。2月初旬、本社の試作工場と設計・開発現場を訪ねた。工場に入ると目に飛び込んでくるのが、白いボディーに部品を組み付けていく「最終組み立て工程」だ。

 試作車のためかほぼ手作業で変わった点は見受けられなかった。だがその奥に進むと同社の競争力の源泉が見えた。バッテリーの生産工程だ。

 バッテリーパック内部のセルは購入しているものの、このパックをどのように構成し、どんな形状に仕上げるかにノウハウがある。EVレースの最高峰「フォーミュラE」の参戦チームにバッテリーを提供。蓄積したビッグデータを設計に生かしているという。

日経ビジネス2020年2月24日号 32~37ページより